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41th Annual Meeting of International Neuropsychological Society in Hawaii, USA, Feb 6-9, 2013

神経心理学の国際学会であるINSは、年間2回の大会を冬は北米で夏は欧州で開催している。今回はハワイでの開催とあって、出席者はいずれもリラックスした雰囲気である。大会のメインテーマは「ライフスパン・神経心理学」で、小児と90歳以上の超高齢者の話題が多かった。イメージングは必須の研究アイテムで、中でも認知症にはアミロイドPETが頻回に用いられていた。これは昨年にアミロイドPETが、米国FDAで認可されたことにも関係している。90歳以上の高齢者を対象とした研究は、我が国の将来的な展望から見ると示唆に富む話であった。またCognitive reserveという言葉がよく聞かれたが、これは教育歴や知的能力の高い人は認知症になりにくいという概念である。すなわちAPOEなどの遺伝的因子は避けられないが、教育やその後の訓練で発症を遅らせることができるということである。やや研究者の手前味噌的な発想ではあるが、これも本邦では今後注目されるかもしれない。こどもを対象とした大規模なイメージングと認知機能、遺伝子検査のコンソーシアム研究(PING)については、米国ならではの研究であると感心した。このような研究が計画され、瞬時に実行に移されるシステムを本邦でも見習う必要がある。最後に文化神経心理学のシンポジウムでは、ステレオタイプ恐怖の概念が医療の分野でも役立つのではないかと感じた。

DAY 1: WEDNESDAY AFTERNOON, FEBRUARY 6, 2013

Presidential Address: Lifespan Neuropsychology: The New Age-ing Frontier, INS President: Sandra Weintraub, Cognitive Neurology and Alzheimer’s Disease Center, Northwestern Feinberg School of Medicine

神経心理学は脳の広範なネットワークを理解し、乳幼児から高齢者までの脳と認知の健康を維持することが目的である。1990年代は脳の10年と言われ、また21世紀の初めはビヘイビアの10年と言われている。INS学会は1967年に、脳外科医で心理学者でもあるKarl Pribramが創始したものである。初期にはヒトを含む霊長類の実験や患者群を対象にした研究が行われた。しかし今ではより高度な手法により、リアルタイムに脳機能を計測することが可能である。今年の大会ではこれらの最先端の手法による、認知的老化と認知症における初期介入と脳への長期的影響について考えていく。

DAY 2: THURSDAY MORNING, FEBRUARY 7, 2013

Invited Address: Can We Detect Alzheimer’s Disease a Decade before Dementia (and why would we want to)? Reisa Sperling, Department of Neurology, Brigham and Women’s Hospital, Boston

アミロイドPETにより所見が見られてから、実際にアルツハイマー型認知症を発症するまでには約15年の時間がかかると考えられている。fMRIとPETの研究により、デフォルト・モード領域の活動が、認知機能と密接に関連していることが分かった。健常な高齢者の3分の1程度にアミロイドがPETで見られるが、このような人では認知機能の低下が早く生じることが分かっている。これらの人々に対する発症を予防するような方法の開発が期待されている。

Invited Address: Primary Progressive Aphasia and the Language Network, Marsel Mesulam, Cognitive Neurology and Alzheimer’s Disease Center, Northwestern Feinberg School of Medicine

アルツハイマー型認知症以外の主要な認知症として、前頭側頭型認知症がある。PPAはその中に含まれており、言語機能の低下を主な症状としている。記憶や注意などは早期には保たれていることが特徴で、人格傾向などへの影響も比較的少ない。そのサブタイプとして失文法型、失言語型、失意味型がある。中でも前部側頭葉(Anterior Temporal Lobe)の皮質委縮が顕著なタイプについて詳細に説明された。この領域は言語機能のHubとして、ブロカ野やウェルニッケ野とともに言語機能を維持することに重要な領域である。

Invited Symposium: Diagnosing Challenging Cases Using Biomarkers and the New AD Research Criteria, Chair: Stephen Salloway, Alpert Medical School, Brown University,

脳MRIやアミロイドPETなどの新しいバイオマーカーを用いて、アルツハイマー型認知症を早期に発見するにはどうしたらいいかについて、診断が困難だったPSPなどを含む4例の症例を呈示してシンポジストに解説を求めるという臨床的なセッションであった。Cognitive Reserveという言葉がしばしば用いられていた。

Invited Symposium, The Pediatric Imaging, Neurocognition and Genetics (PING) Study: Focus on Assessment Core Phenotypes, T.L. JERNIGAN, Center for Human Development, UC San Diego

3歳から20歳までの定型発達のこどもを対象とした、イメージングと認知機能、遺伝子検査を含んだ10施設におけるコンソーシアム研究について概略が述べられた。この研究の目的はImaging-geneticsの観点から、脳の発達と遺伝、環境の影響などをデータベースとして提供することである。

The NIH Toolbox Cognition Battery: Results from a Large Normative Developmental Sample (PING), N. AKSHOOMOFF. Department of Psychiatry and Center for Human Development, University of California, San Diego

子供用に作成されたさまざまな認知機能テストのバッテリーがNIH Toolboxとして利用できる。これには持続性注意(Flanker test)、ワーキングメモリー実行機能、エピソード記憶、絵画名前付けなどのテストが含まれている。現在までに収集された大規模な(1000人規模)テスト結果について説明された。年齢により認知機能は次第に上昇するが、わずかな性差も認められた。家庭の社会経済状況や、祖先の遺伝的要素なども認知機能の結果に有意な影響を与えていた。

Prenatal Tobacco Smoke Exposure on Brain Morphometry and Diffusivity. L. CHANG, University of Hawaii Neuroscience and MR Research Group

妊娠中の女性の喫煙率は若干の低下を見せるものの、依然として16%程度になっている。胎生期に母親の喫煙によりニコチンに暴露されたこどもの脳形態をMRIで調べた。脳領域はいずれもニコチン暴露群で有意に減少していたが、結果は女児において強く認められた。しかし認知機能にはニコチンの影響は認められなかった。

Age-Dependent Relationship between Childhood Anxiety and Regionalization of the Ventromedial Prefrontal Cortex, E. NEWMAN, UCSD

構造MRIで不安と内側前頭前野や扁桃体の形態を調べた。その結果では女性であることと不安が高いことが、内側前頭前野と扁桃体の体積低下に関連していた。この結果は内側前頭前野の発達が遅いほど、不安が強い可能性を示唆していた。

Relationship of a Functional Variant in the Neuregulin 1 Gene to White Matter Microstructure in Children of the Pediatric Imaging Neurocognitve Genetic (PING) Study, V. DOUET, University of Hawaii Neuroscience and MR Research Group

年齢と脳形態、遺伝子の関連性を調べるために、general additive modelという統計手法を用いた。Neuregulin1遺伝子のrs6994992におけるT-risk alleleは、脳領域体積減少、脳質拡大、FA高値、MD低値に関係していた。

Invited Address: Do Children Really Recover Better? Neurobehavioral Plasticity after Early Brain Insult, Vicki Anderson, Child Neuropsychology, Murdoch Children’s Research Institute/Royal Children’s Hospital

小児期における脳損傷では、3歳以下の発症、家族の社会経済的状況、けいれんの有無、家族機能の良し悪しなどが予後に関係していた。

Birch Lecture: Clinical and Pathological Studies in the Oldest Old: The 90+ Study, Claudia Kawas, Depts. of Neurology and Neurobiology & Behavior, University of California, Irvine

高齢者の中でも90歳以上の人は、先進国では増加している。米国では200万人程度に達すると予想され、その割合は全人口の2%程度を占めるとされている。さらに高齢化が進んでいる日本では、全人口の6%に至るだろう。米国カリフォルニア州には引退した高齢者だけの自治体がある。そこでは平均年齢が90歳以上で、その市長も90歳である。この市の住民を対象にした縦断研究では、様々な生活上の因子と長寿との関連が調べられた。その結果ではアルコール、コーヒー、BMI、運動・余暇活動が有意に長寿と関係していた。また90歳以上の人口の30から40%には認知症が見られた。これらの人々においては、APOEなどを含む認知症の危険因子は発症にはあまり関係しなかった。高血圧よりも低血圧のほうに認知症にかかりやすい傾向があった。これは90歳以上では血圧と健康の関係が異なってきているためと考えられた。さらに剖検例をみると、認知症のなかった人でも40%以上にアルツハイマー型認知症の神経病理所見を認めた。アミロイドPETの結果は、認知機能の低下を予想することに有用であった。

Invited Symposium: Advances in Cultural Neuropsychology, Jennifer Manly, GH Sergievsky Ctr, Columbia University,

文化神経心理学の概略を説明した。中でもfMRIの有用性とその問題点などについて話した。fMRIの課題を設定する上では、被験者の教育レベルをどのように評価するかという点について問題を提起した。一般的に神経心理テストは欧州系白人では妥当性が検討されているが、それ以外の人種ではそうではないことに注意すべきであると結んだ。

The impact of non-cognitive factors on neuropsychological test performance: A closer look into stereotype threat and perceived discrimination, April D. Thames, UCLA

ステレオタイプ恐怖と知覚された差別はマイノリティ・グループに特徴的に見られ、いずれも認知機能を低下させる。これはあるステレオタイプに自分が該当するという恐れによって、ある認知課題で成績が低下する現象である。また試験者と被験者の人種が異なる場合に、黒人学生では試験者が白人の場合には黒人の場合よりも成績が低下すると報告されている。これらの研究結果は、障害を持った群や高齢者などを対象とした検査にも適応できるものである。

Bilingualism in Aging & Dementia: Evidence for Language-Specific Control Mechanisms, GOLLAN, T、UCSD

バイリンガルの人では、認知症になる年齢が上昇するとする研究について説明した。しかし教育歴別に調べると、この結果は低教育歴の集団だけに当てはまることが分かった。またバイリンガルでは会話に付随する間違いや、TOT現象が有意に多く生じていることが分かった。バイリンガルは実行機能に何かもう一つの機能が加わったような働きをしていると考えられた。

 

顔認知国際シンポジウム in NIPS Okazaki

2012/10/31-11/3まで愛知県岡崎市の生理学研究所で、表記の国際シンポジウムが開催されました。顔認知の世界的権威が一堂に会しています。内容について簡単に報告します。

それでは気に入った講演について少し。

Oct 31 (Wed)

James Haxby (Dartmouth College, USA) “A common, high-dimensional model of the representational space for faces and objects in ventral temporal cortex”

顔認知の脳画像では第一人者のHaxby先生のお話。彼は最近ではMVPA (multi-voxel pattern analysis) に凝っている。側頭葉下面の信号を丸ごとMVPAにかけて、一段高次の表象空間において判別するというもの。数式が多く理解が追いつかないことがやや問題点。それから判別することと、脳機能の生理学的仕組みの解明とはややギャップがあるのではないかとも指摘されていた。つまりMVPAなどの機械学習はあくまでtoolであって、利用目的は必ずしもscienceだけではないということ。

Kalanit Grill-Spector (Stanford University, USA) “The neural bases of face recognition in humans”

彼女の講演は自分としては、このカンファレンスの一押しであったと感じている。FFAを高解像度fMRIで検証し、さらにanteriorとposterior patchがあることを示した。またてんかん患者の硬膜下電極から、FFAを電気刺激すると眼前の人の顔の部分だけが歪んでしまうという臨床研究のビデオも紹介した。聞くと日本は今回が初めてとのこと。機会があったらまた招聘してみたいと思いました。

Nov 1 (Thu)

Doris Y. Tsao (California Institute of Technology, USA) “The neural machinery for processing faces”

彗星のように現れた女性研究者で、圧倒的な情報量で他の発表を凌駕していた。サルの電気生理とfMRIと、その他どんな手法でも取り入れている。サルとヒトでの側頭葉下面におけるface patchの存在の発見とその機能的解析について話した。さらにそれらのpatch間の機能的結合性についても電気刺激実験の結果などを紹介していた。

Nov 2 (Fri)

Alexander Todorov (Princeton University, USA) “Social perception of faces”

意外にfMRIの研究はなく、CGを使った顔の特徴を微妙に操作する行動実験について話した。例えばJIMという人物の顔の特徴を極限まで強調した顔と、反対にその反対の特徴を持つanti-JIMという顔を作成していた。このような顔の特徴を2D空間に表象させるのは、最近の流行である。しかし現実的に考えて、われわれが日常生活でそれほど顔の微細な特徴を観察しているかどうか疑問もある。つまりわれわれは顔だけでなく、声、態度、服装、髪型などの情報を加味して人物判断を行っているのではないかということである。

Nov 3 (Sat)

Ken Nakayama (Harvard University, USA) “What is developmental prosopagnosia?”

先天性相貌失認の患者をWEBで集め、その顔認知を含めた視覚特性や認知機能などを研究している。特徴としては顔認知能力に低下があることはもちろんだが、その他の物体認知にも幅広い障害が認められる。言語的記憶などには大きな障害はない。遺伝的に家族内発症する例もあるし孤発例もあって、遺伝的な要素がすべて説明するわけではない。トレーニングによる効果なども発表されていた。

Olivier Pascalis (Université Pierre Mendès France, France) “The role of experience on the development of face processing during the first year of life”

生後すぐからヒトの乳児には、何らかの視覚刺激の差異を検知する能力が備わっている。特に顔をそれ以外の物体から弁別する機能は、次第に母親とそれ以外の顔、既知の顔と未知の顔、同じ人種の顔と異なった人種の顔というように発達していくのである。このような脳の働きはまだあまり解明できていないが、今後は機能的脳画像などを用いた研究も増えていくだろう。