Society for Neuroscience

Society for Neuroscience, 42th annual meeting in New Orleans, Oct 13-17, 2012

前回は8年前の2004年に当地を訪れたが、その時はまだリーマンショックの前ということもあり米国景気は良かった。しかしその翌年の2005年にニューオリンズは台風による洪水被害を受けた。ダウンタウンの大半は水没し、会場であるコンベンションセンターには大量の市民が避難していた光景を思い出す。その時からよくここまで復興したものと思えるが、それでも一部の高層ビルはまだ廃墟のようだった。人口は水害の前の7割までにしか戻っていないとのこと。ミシシッピ川沿いのモールもテナントが所々抜けており、閉店セールの張り紙が多かった。買い物をしているとモール自体が近々改装のため、テナントはみな一時退去するのだという。やはりあれほどの災害の後では、完全にもとの状態に復興することは景気減退もあって難しいのだろうか。学会参加者もやや減少気味で、28000人余であった。

10月14日(日)
午前
Symposium: Prefrontal cortex: Amygdala Interactions in Control of Behavior
前頭前野と扁桃体の相互作用が行動の制御に関係していることを明らかにした。例えば環境からのストレスや慢性的なアルコール摂取が前頭前野や扁桃体に与える影響と、その結果としてのアルコール摂取量の増大などを検討した。

Overview: Role of the PFC-amygdala interaction in stress response and addiction. Sinha (Yale Univ) ではfMRIを用いてアルコール摂取やストレス下における脳の活動を計測した。

Alcohol and the prefrontal cortex. Chandler (Med Univ South Carolina) はラットへのアルコール投与下における前頭前野の神経活動の変化について報告した。

Connectivity of the amygdala: from emotion to anxiety. Whalen (Dartmouth Univ) はfMRIを用いて顔認知などの課題で扁桃体を賦活させ、その機能的連結性について発表した。

Affective processing in the ventral prefrontal cortex and amygdala: modulation by serotonin. Roberts (Univ Cambridge) は腹側前頭前野と扁桃体の相互作用について述べた。全体的によくまとまったシンポジウムであったが、2番目の発表者が扁桃体についての研究をしていなかったのがやや場違いであった。

午後
Nanosymposium: Brain Alterations in Psychosis: Function and Molecular

B-SNIP: Brain gray matter intermediate phenotypes across the categorical DSM-IV diagnosis and the psychosis dimension. IVLEVA (Univ Texas)
数百例のT1画像とVBMでSchizoやBPの同胞の灰白質体積を比較した。DSMでの診断別の比較よりも、精神病状態の有無での比較のほうで有意差が強かった。

Dynamic brain network structure: Its organization in working memory and alteration in schizophrenia. SIEBENHUEHNER (Univ California)
ワーキング・メモリー課題でMEGを記録し、各周波数帯域での活動を抽出しさらに帯域間の相関を見た。Schizoでは各周波数帯域の活動が低下しているだけではなく、ガンマ帯域とベータ帯域の相互作用も低下していた。

Medial prefrontal resting state connectivity abnormalities in bipolar disorder. EYLER (Univ California)
安静時fMRIでMPFCをseedとして双極性障害患者(寛解期)と健常者で比較した。患者群ではMPFCと基底核や視床の連結が亢進しており、MPFCと他の皮質領域の連結は低下していた。

Reduced cross-frequency modulation of EEG oscillations both within and between electrodes in schizophrenia. SIMMONITE (Univ Nottingham)
Schizoと健常者で聴覚オッド・ボール課題を遂行してガンマ帯域とデルタ帯域の活動を計測し、さらに周波数帯域間や時間窓間での相関を調べた。その結果ではデルタ帯域とシータ帯域の調節が患者群で低下していた。これらの結果は脳領域の結合性とともに周波数間の連結も低下していることを示している。

Functional connectivity correlates of schizophrenia symptom severity and cognitive deficits. SHAFFER (Univ North Carolina)
安静時fMRIデータをAALテンプレートで解析して、その相関マトリクスを患者と健常者とハイリスク者で比較した。さらに症状評価尺度や認知機能データを加えてICAを行い、独立成分に分けた。その結果では患者群では前頭葉―辺縁系の相関が陰性症状と、前頭葉―帯状回の相関が陽性症状とそれぞれ関連した。

Presidential Special Lecture: Molecular mechanisms of synchronous neurotransmitter release. ROTHMAN (Yale Univ)
神経伝達物質の放出にはシナプス小胞が細胞膜に接触することが必要だが、この機構にはSNAREタンパクという物質が関係している。SNAREは小胞と細胞膜を互いに引き寄せるようにして、最終的には穴が貫通するような働きをする。このための生化学的機構が最近になり明らかになってきた。

10月15日(月)
午前
Nanosymposium- Extrastriate cortex: Functional organization Faces and Objects

Distributed maps within face- and place-selective regions represent perceptual and conceptual properties of faces. GOESAERT (KU Leuven)
顔の目や口などの位置を微妙に変化させた画像を作成して実験刺激として用いた。さらにその顔に名前や場所、行為などの情報を付加して覚えさせた。FFAの活動がそれらの操作により異なるかどうかをfMRIとSVMで検討した。FFAは顔写真の微妙な差を検出していたが、場所などの情報は含まれていなかった。一方でPPAは顔がどの場所と関連付けられたかを検出した。

Temporal constraints on the statistical learning of image sequences in inferotemporal cortex. MEYER (Carnegie Mellon Univ)
サルに2つの画像A・Bを連続して呈示することを何回も行って学習させ、その後にA・Bを呈示した時に側頭葉下面(ITC)の活動を調べるとBの時に活動が有意に低下する。この現象はA・Bの間隔を600msまで離しても確認できる。次にA・B・Cの3つの画像で同じ実験をしても同様の低下を認める。さらにAの写真を他のものに変えるとBの低下はあるがCの低下は認められない。Bの写真を別のものに変えるとCだけ活動が低下する。

Statistical learning of visual sequences in monkey inferotemporal cortex depends on the bidirectional conditional probability of the images. RAMACHANDRAN (Carnegie Mellon Univ)
上の実験を発展させ、A・Bのそれぞれの画像の数を2・1または1・2にした条件を加えた。その結果ではA・Bが1・1の場合よりも2・1および1・2の場合の方がITCの活動減少が少なかった。

An expanded neural framework for the processing of object properties. KRAVITZ (NIH)
サルの側頭葉下面のいわゆる「What経路」は、さらに下位領域に分類される。またそれぞれの下位領域は相互の連絡がある。皮質下の扁桃体は側頭葉の先端部からの入力を受けるが、そのフィードバックは側頭葉全域にわたっている。また基底核領域と側頭葉の連絡などもある。

Electrical stimulation of human fusiform face-selective regions distorts face perception. PARVIZI (Stanford Univ)
脳外科のてんかん手術の硬膜下電極から側頭葉のFFAを電気的に刺激して、患者の顔認知にどのような変化があるかを調べた。患者は電気刺激が与えられると、顔のそれぞれのパーツが歪んで見えると話していた。頭部の輪郭や着衣などには変化はなく、風景写真なども正常に見えることから、顔に特異的な現象と考えられた。

Complexity and contradiction in neural encoding of face similarity. KAHN (Univ Pennsylvania)
顔に代表される複雑な図形が脳内でどのように表象されているかはまだ未解決の問題である。顔の表情を段階的に変化させてその脳内での反応をfMRIで計測した。モデルとしては各段階の顔に対して、顔領域がどのように反応するかで2つに分けて考えた。最初は一部のニューロン集団が、それぞれの段階の顔に対して同じような反応を示すモデルである。2つ目は全体が各段階に応じた反応を示すモデルである。結論としてこの2つのモデルが混在しているというのが妥当な解釈であった。

Symposium – Treatment of developmental disorders in adulthood.
通常は成人になってからの治療は不可能であると考えられてきた神経発達障害に対しても、治療の可能性があることが最近分かってきた。1つはマウスモデルにおいて、発達したマウスで症状の緩和が見られること。2つめは可塑性に関して重要な時期の状態を、発達後に環境的または薬物的に誘発できることである。

Targeted treatments in Fragile X syndrome: from animal models to humans. HAGERMAN (Univ California)
複数の薬物(Minomycinなど)の投与が成人期のFragileX患者に行われて有効であったという報告がある。

NF1, TSC and Angelman syndrome: from basic research to clinical trials. ELGERSMA (Erasmus Univ)
上と同様に複数の薬剤が有効であったという報告が示された。しかし一般的にはまだいずれも幅広い患者群での有用性は認められないようである。また偽薬効果の方が大きかったという結果も報告されていた。

午後
Nanosymposium-MR imaging techniques

What advantages do parallel array coils and acceleration methods provide at resolutions typically used in functional MRI research? MCMAINS (Harvard Univ)
EPIで用いられるヘッドコイルと撮像方法のアクセレレーションの要素が、脳賦活検査の結果にどのような影響を与えるかを検証した。3T SiemensスキャナーでTR=3000ms、3x3x3または2x2x2mmの解像度で行った。2チャンネルと32チャンネルのヘッドコイルを比較した。またアクセレレーション・ファクターGRAPPAを1(デフォルト)、2、3と変化させた。SN比は32チャンネル・ヘッドコイルで高かったが、その差は2mmの解像度の方が大きかった。しかし課題による賦活の程度は12チャンネル・コイルが大きかった。T値は32チャンネル・コイルが大きかったが、それは2mmの解像度だけだった。中でも前頭葉における信号輝度の差は32チャンネルで大きかった。結局どちらが良いとは一概には言えないということだった。

Effect of tractography methods on tract volume. MARENCO (NIMH)
DTIのtractographyはdeterministic(DTI studioなど)とprobabilistic(FSL)なものがある。そのどちらが良いのかをWilliams症候群の患者におけるinferior fronto-occipital fasciculusで検証した。DTIはGE 1.5Tスキャナーで2x2x2mm、120方向、b value=1200で行った。DTI studioではWakanaの方法によりFSLでは閾値を1%waytotalとしてそれぞれtractを描き体積を計算した。健常者ではどちらの手法でもtract体積に大きな差はなかった。しかし患者ではDTIstudioでは体積が低下していたがFSLでは有意な差はなかった。患者群における全体的なFA値に低下が、DTI studioの結果に影響を与えている可能性があった。一方でFSLはそのようなFA値による影響は少なかった。FSLではdistant correctionをオンにして計算すべきであった。

Nanosymposium-Neural circuitry underlying anxiety and processing of fear

Olfactory capture in visuo-olfactory integration of subthreshold threat signals. LI (Univ Wisconsin-Madison)
Cross-modalな処理は感覚入力が乏しい場合には最も有効に働く。この実験では表情における微細な変化と嗅覚刺激をマッチさせた場合に、恐怖顔の認知がネガティブな臭いで促進された。fMRIの結果でも、嗅覚刺激が視覚刺激の処理を促進する方向に働いていた。

Reduced recruitment of orbitofrontal cortex to human social chemosensory cues in social anxiety. ZHOU (Chinese Academy of Science)
社交不安障害は社会的刺激に対する嫌悪条件付けが成立しているのか、あるいは個人の性格傾向の問題なのか明らかではない。本研究では嗅覚刺激を用いて社交不安の高い被験者は前頭葉眼窩部の活動が低下していることを示した。この結果は社交不安が嫌悪条件づけの結果ではなく、生得性のものである可能性を示している。

10月16日(火)
午前
Symposium – The Human Connectome Project
このプロジェクト(HCP)はNIHの主導のもとに生体で最先端のneuroimagingを用いて脳の神経回路を健常者で探ることを目的にしている。そのデータセットは2012年の秋からは、神経科学領域では自由に利用できることとなっている。このシンポジウムではその現時点での状況についてと、最近の技術的な進展について述べられる。また自由なデータ・マイニングの利用法についても示される。

Diffusion MRI as a tool for discovery. Wedeen (MGH)
DSIの手法で単一のボクセル内で交差する神経線維を効果的に描出する方法を開発している。今までのtractographyはボクセル内では単一の方向しか計算できなかった。しかし解剖学的にはこれは間違っており、また直角に近い線維の曲がりも解剖学的には確認されている。このような生体に近い線維束の描出には高磁場MRIと高解像度の撮像が必須である。

Recent advances in acquiring human connectome data. Ugurbil (Univ Minnesota)
7Tまたは10.4Tの高磁場MRIを用いて、さまざまな新しい撮像方法によりノイズやゆがみの少ないDTI画像を得ることができることを示した。HCPのプルトコールではTRは従来の2-3sよりも、アクセレレーション・ファクターにより大幅に短縮されて1sかそれ以下になっている。

Johansen-Berg (Oxford Univ)
FSLにより様々な脳領域を結ぶ線維を描出し、それが解剖学的にもまた生理学的あるいは行動学的にも妥当であることを示した。

Mining the human connectome. Van Essen (Washington Univ)
HCPによってどのようなデータが収集され、それがどのような形で処理されてWEB上に乗るのかを示した。このデータは研究者が自由にダウンロードして解析したり、その結果を見ることが可能になる。実際のHCPでは被験者はDTI、MPRAGE、rs(R)-fMRI、task(T)-fMRIの他にもさまざまな認知機能や性格傾向、遺伝子データなどが収集される。T-fMRIでは作動記憶や顔認知、共感性などを含めた7種類の課題を行う。その実験には丸二日間かかる。

午後
Nanosymposium-Social Cognition II

Development of the audience effect in adolescence. WOLF (UCL)
思春期では周囲に他人がいると自分の行為がそれによって良い方向にも悪い方向にも変化しやすいことが知られている。この実験では被験者だけの場合と実験者がそばにいる場合と知人がそばにいる場合で実験結果が異なるかどうかを検討した。結果として誰かから見られている場合に課題成績が上昇することが分かった。

Neural mechanisms of human communicative innovations. STOLK (Radboud Univ)
MEGを用いて2名の被験者が相互にコミュニケーションしている場合の脳活動を計測した。このような状態では腹側と外側PFCの活動が亢進していることを示した。

Elements affecting the cognition and handling of monetary reward. TAMORI (KIT)
年度末になると残っている経費をあまり意味のない物品を購入することに必死になるが、これを行動実験として検証した。2000円を渡してそれを毎月に菓子を購入するような課題を作成した。12か月後に残金を持ち越せる条件と持ち越せない条件を作り、どちらが年度末に使う金額が大きいかを検討した。持ち越せる条件の方が年度末に使った金額は小さかった。また使ったことにたいする満足度にも有意差が認められた。

Neural correlates of the reward value for number of choice options. AOKI (Tamagawa Univ)
fMRIを用いて被験者が対する相手とカードによる報酬課題を行った。その場合に被験者と相手には2もしくは4つの選択肢が与えられた。この様な場合に被験者の腹側基底核の活動は4つの選択肢が与えられた場合に2つの選択肢の場合よりも活動が上昇した。

Symposium- Making sense of prefrontal cortical dopamine

Imaging cortical dopamine in schizophrenia. Abi-Dargham (Columbia Univ)
D1受容体PETおよびD2/3受容体PETを用いて、統合失調症患者と健常者で前頭葉皮質のドーパミン受容体機能を計測した。過去にもさまざまな結果が出ているが、まだ一定の結論には至っていない。しかし薬剤の投与は極めて大きな問題であるが、薬剤を中止してもかなりの期間が経たないと薬剤未使用例とは同等の結果には至らないことが分かった。アンフェタミン投与による刺激実験も行ったが、残念ながら被験者間の分散が大きくてまだ有意な結果は得られていない。

10月17日(水)
午前
Special lecture-Sexual differentiation of human brain and behavior. HINES (Univ Cambridge)
性ホルモンはヒト以外の動物の神経行動学的性差の発現には極めて強力な役割がある。このレクチャーでは主にヒトの発達における性差への性ホルモンの影響を、性別間の問題だけではなく性別内の問題としても考える。例えば何故ある種の男児は女児のおもちゃで遊ぶことを好むのか。何故ヒトの中でも性志向が異なるのか。何故ある人は攻撃的なのか等である。発達初期のホルモンの影響は同時に社会性の影響も受けている。性別によるヒトの特徴や行動の違いは、例えば身長、遊び、共感性、空間認知、攻撃性などがある。ここでは身長よりもその効果量が大きい子供の時期の遊びに焦点を当てた。発表内容は主にCongenital Adrenal Hyperplasia (先天性副腎過形成:CAH)の患者に対する行動実験の結果である。またその養育者への行動実験や質問紙なども含まれている。Teststeroneは胎生期の一時期に急峻なピークがあり、次いで出生直後の数週目にもピークがある。この時期になんらかの性別に関する効果があるらしい。その後は10から12歳以降の思春期に上昇する。女児のCAHはその性器が男性型になるため出産直後に発見される。治療を受けることで通常の女児と同じような生活を送ることが可能である。興味深かったのはサルにおいてもオスはヒト男児のおもちゃにメスはヒト女児のおもちゃに興味を示すことである。これはこのような遊びの志向性に社会性以外の影響が含まれている可能性を示唆するものである。

午後
Symposium – Sleep plasticity pathways: synapses, circuits and memory consolidation.
認知や記憶における睡眠の役割については、システムの強化とシナプスの恒常性という異なった方向の働きが言われている。シナプスにおける結合の増加と減少のそれぞれが、睡眠時の記憶の強化に関係している。睡眠時間の減少による神経活動の変化についても述べられる。

Active system consolidation during sleep. BORN (Univ Tuebingen)
脳幹部の青斑核の興奮が視床における紡錘波を形成し、さらに海馬を経て皮質における徐波を形成する過程で、記憶が皮質領域に貯えられると推定されている。

Sleep function and synaptic homeostasis: implications for learning and memory. TONONI (Univ. Wisconsin/Madison)
断眠によって神経細胞の一部が休んだ状態になるlocal sleepという現象について説明された。

Functional neuroimaging of risky decision making when sleep deprived. CHEE (Natl Univ Singapore)
被験者を断眠させてfMRIにより課題を行わせ、脳活動の変化を調べた。課題は比較的単純な注意課題や顔―家判断などであった。表題にある意思決定課題につては述べられなかった。全般的に断眠によって脳活動が低下することが示された。

Society for Neuroscience, 41th annual meeting in Washington D.C., Nov 12-15, 2011

今年のSFNはワシントンで3年ぶりに行われた。前回の2008年は丁度オバマ大統領が当選した数日後で、ワシントンは彼のポスターやバッチが氾濫していた状態であった。その時はホテルに売っていた、大統領の缶バッチやマグネットをお土産に買って帰ったものだった。しかし今回は打って変わってアメリカは不況の真っただ中で、ニューヨークでは格差反対デモの最中である。さらにホワイトハウス近くの公園においても、ホームレスのテントが林立している光景が印象に残った。
SFNは2005年のワシントン大会で、史上最高の35000人の参加者を記録した。残念ながらその後は低下傾向にあり、前回の2008年には30000人であった。今回はやや復活し、32000人の参加者であったことが報告されていた。我が国の大きな学会でも参加者は数千人程度であることを考えれば、それだけで立派なものである。しかし過去最高を更新できないのは、参加者としては悔しい感じもする。アメリカの経済状況については、2008年の大会が丁度リーマンショックの直後であった。今回はしかし、3年間の不況を経てさらに悪化傾向にある。
相対的に見て、2005年の輝かしさは失われつつある印象を受ける。なにより対象とすべき疾患が不明確であるのが問題点であろう。過去にはAltzheimer’s病がメインであったのが、発達障害などに拡散していることがあげられる。発達障害は臨床症状が不明瞭であり、神経病理学的所見がないことなどからニューロサイエンスとして扱うことが適切かどうか分からない。しかしその発症頻度の急速な増加などから、NIHや民間の助成金は増えている。
丁度今回の大会に合わせて、Nature誌がAutismの意見広告のような記事を掲載した。Nature誌は昨年のサンディエゴ大会に合わせて、schizophrenia特集を組んでいる。まあ日本の学術誌もそれ位の機敏性が必要と思うが、Nature誌はなにより商業誌である。今回の特集は昨年のschizophrenia特集に比較して、学術的な価値は低い。多分それだけ、世界的にも研究内容が乏しいということだろう。Baron-Cohenの研究に関してもCambridge周辺の特殊な世界の知見であると言いたげである。これはアメリカのイギリスに対する偏見かもしれないが。
話は変わるが、大会の直前にSocial Neuroscienceの大会が同じ会場で開催されていた。小生は残念ながら参加できなかったが、日本からも数名のシンポジストが出席していた。その流れのせいかSFNの関連のセッションには、若い研究者それも女性の姿が目立った。一方で伝統的な神経生理学的研究のセッションは、参加者が少なくまた高齢である印象を受けた。これが良いのか悪いのか判断はつきかねるが、そういう潮流であることは意識する必要があろう。
さていつものように、聴講したセッションの抄録と全体的な印象について書き記すことにする。当然であるがその内容には、抄録の一部が含まれていることをご了解いただきたい。

DAY1

Nanosymposium
Neurobiological Basis of Individual Susceptibility for Mental Illness

Variations in the corticotropin-releasing hormone receptor gene (rs110402) influence BOLD signal responses during emotional stimulus processing. D. T. HSU et al. The Mol. & Behavioral Neurosci. Inst., Univ. Michigan, ANN ARBOR, MI
CRH receptor 1 (CRHR1)遺伝子のSNP (rs110402)と早期ストレスが大うつ病への罹患とその重症度に関係し、そのGGホモはストレス脆弱性を持つとされる。 83名の健常人と16人の大うつ病患者が、情動単語を使ったfMRI実験に参加した。AキャリアとGGホモの比較を各群で行った結果、GGホモでは膝下帯状回の活動は大うつ患者で健常者よりも高かった。従って本SNPは情動にかかわる脳内処理に影響を与えている可能性があった。一般的なImaging genomicsの結果であるが、膝下帯状回の活動に違いがあることが興味深かった。扁桃体には差はなかったようだ。

Gene expression patterns in the primate amygdala linked to anxious temperament and its neural substrate. S. FOX et al. Univ. Wisconsin-Madison, MADISON, WI;
小児期に不安傾向をもつ者は、将来的に不安障害やうつ病を発病する危険性がある。この不安気質を早期に同定することで、早期介入を可能にできる。サルにおいては扁桃体の中心核がこの不安気質に関係していることが分かった。そこで中心核の組織でmRNAの発現を見た。238頭のサルに見知らぬ人を見せて不安を惹起し、扁桃体の代謝をFDG-PETで調べた。中でも高値と低値を示す24頭に対して、中心核のmRNAを抽出した。140個の転写物が不安気質を相関しており、その中にはNTRK3、IRS2、EFNA3、GADD45Bなどが含まれていた。

Mineralocorticoid receptor (nr3c2) iso/val (rs5522) genotype and emotional neglect independently and interactively influence threat-related amygdala reactivity. R. BOGDAN et al. Psychology & Neurosci., Duke Univ., Durham, NC

ミネラルコルチコイド受容体遺伝子 (NR3C2)の(iso)/valine(val)多型(rs5522)は、コルチゾール値や老人性うつ病に関係している。この多型と小児期の虐待経験と扁桃体の活動の関連を見た。279人の青年が怒り恐怖顔を見ている時のfMRIと小児期トラウマ質問紙を行った。結果としては、小児期トラウマと遺伝子多型は右扁桃体の活動に影響を与えていた。最終的にこれらの因子は、扁桃体活動の被験者間分散の8%を説明した。

Ventral striatal reactivity to reward protects against stress-related hedonic impairments: Implications for vulnerability and resilience to depression. Y. S. NIKOLOVA et al. Duke Univ., Durham, NC
うつ病にはストレスが関係しているが、なぜ一部の者で発病し他ではしないのか明らかではない。本研究は腹側基底核の活動がストレス耐性に関係していることを200名の健常者に対するfMRIで調べた。基底核の活動と最近のライフストレス・アンヘドニアに関係があった。中でも基底核の活動が低い者では、ライフストレスとアンヘドニアの相関があった。

Variability in threat-related amygdala reactivity is associated with interactions between emotional neglect and common polymorphisms in FK506 binding protein 5 (FKBP5). M. G. WHITE et al. Natl. Inst. of Mental Health, Natl. Inst. of Hlth., Bethesda, MD
小児期の虐待などは後年の精神障害の発病に関連している。FK506 binding protein 5 (FKBP5)の遺伝子多型は、HPA軸の転写活性を調節しトラウマへの耐性などにかかわっている。本研究では139名の健常な青年に対して、扁桃体活動をfMRIで計測し、さらに6個のFKBP5多型と小児期感情的放棄質問紙を調べた。複数のSNPおよびハプロタイプにおいて、扁桃体活動の遺伝子X環境相互作用が認められた。

DAY2

Special Lecture

Defining the Neuronal Circuitry of Fear. A. LUTHI. Friedrich Miescher Inst. for Biomed. Research, Switzerland, Basel, Switzerland

恐怖条件付けは、関連学習の神経基盤を研究する上で最適な方法である。動物とヒトにおいて扁桃体は、恐怖記憶の獲得、発現、消去のいずれにおいても重要である。本講演では扁桃体の異なったニューロンが、恐怖行動の迅速な変化に関係していることを示す。機能的、解剖学的、遺伝的に別個のニューロンが局所の神経回路と正確に結合しており、さらに大きな回路との関係によって恐怖獲得と消去に特異的な貢献をしていた。また局所の抑制回路が複数の機構や階層において、獲得と消去に関係していた。

Minisymposium

The Neurobiological Bases of Social Pain
社会神経科学関連のミニシンポで、主に共感性や他者の気持ちの理解などに関係する神経相関が発表された。下記の3つの発表を聞いたが、いずれもなかなかIFの高い雑誌に掲載された論文を複数組み合わせて発表していた。中には1つのMRIの中に、2名の被験者が横たわって撮像できるヘッドコイルを使った研究もあった。会場は立見(向こうでは坐見であるが)も出るくらいで、若い研究者が多かった。改めてこの領域の関心の深さが見て取れた。

Neural correlates of social exclusion. C. J. Norris. Dept of Psychological and Brain Sciences, Dartmouth College, Hanover, NH.

Why rejection hurts: Exploring the consequences of a physical-social pain overlap. N. I. Eisenberge. Dept of Psychology, Univ of CA, Los Angeles, Los Angeles, CA. (この若い女性研究者の業績はなかなかすごい、いつか日本に呼ばないといけませんね)

Special Lecture

Rett Syndrome: Linking Epigenetics and Neuronal Plasticity. H. Y. ZOGHBI. Mol. Human Genetics/ Neurosci., Baylor Col. of Medicine/Howard Hughes Med. Inst., Houston, TX

レット症候群は広範でかつ重篤な神経学的および行動的障害を示す疾患である。この疾患はクロマチンの再構成により他の遺伝子の発現を調節するMethyl-CpG binding protein 2 をコードするMeCP2遺伝子の変異で生じる。MeCP2遺伝子の変異は、軽度の学習障害から自閉症さらに早期発症統合失調症にいたる広い範囲の疾患を起こす。最近の研究では、MeCP2はニューロンが正常に機能することに重要であることが分かった。演者は小児神経の専門家で、若いころに出会ったレット症候群の研究を長年している。女児に生じる本疾患は、特異な手指の運動と広範な発達障害で知られる。本講演ではMeCP2の異常がどの神経回路に生じるかによって、患者に発現する症状が異なることを示した。自閉症などに関連させるには性別の問題や、単一遺伝子と多数遺伝子疾患における研究手法の相違などがあるだろう。

DAY3

Nanosymposium
Human Memory: Multivariate and Connectivity Studies

Representations of decision evidence across perception and memory: An fMRI study. A. M. GORDON et al. Dept. of Psychology, Stanford Univ., STANFORD, CA
前頭葉と頭頂葉の活動と知覚・記憶判断の関係をfMRIによって調べた。知覚課題では顔と家のノイズ画像を見てその判断と確信度を評定した。記憶課題では、最初に単語と顔または家の対を記憶し、後にそれを想起させた。MVPAを用いて顔対家の差分を示す領域の活動を学習させ、さらに知覚・記憶課題のデータに当てはめた。前頭葉と頭頂葉の活動が確信度と関係しており、それは知覚・記憶課題とも同様であった。

Decoding real-world autobiographical retrieval experiences with fMRI multivoxel pattern analysis. J. RISSMAN et al. Dept. of Psychology, UCLA, Los Angeles, CA
日常的な記憶は実験室での記憶と異なり、様々な種類の記憶が混じっている。本研究では、16名の健常被験者がVicon Revueデジタルカメラを3週間に渡って装着し、日常生活で数万件の写真を撮影した。1週間語のfMRI実験で各被験者は、自分の撮った写真と他認の撮った写真を見てその記憶判断をした。記憶テストでは虚再認率は6%と低かった。MVPAの結果は90%の確率で、ヒットと正棄却を区別した。また海馬や前頭葉の活動が想起と親近性を区別できた。

Multi-voxel pattern analysis reveals dynamic tradeoffs between reactivating the past and encoding the present. B. A. KUHL et al. Psychology, Yale Univ., New Haven, CT
単語と写真(顔、物体、風景)の対を学習し、後に対を変えて学習することで過去の学習が最近の学習に与える影響について調べた。対を変えた場合には外側前頭葉が、変えない場合は内側前頭葉がそれぞれ賦活された。記銘時に学習したMVPAは、想起時の結果を十分に予測するものであった。

David Kopf Lecture on Neuroethics

A Neanderthal Perspective on Human Origins. S. PAABO. Dept. of Genet., Max Planck Inst. for Evolutionary Anthropology, Germany, Leipzig, Germany

この研究者は過去25年に渡り、化石の中からDNAを抽出して解析する技術を開発してきた。最近では西ユーラシアに3万年前に住んでいた、ネアンデルタール人の化石からゲノムを採取した。その結果から、アフリカ人以外のヒトのゲノムの2.5%はネアンデルタール人に由来していることが分かった。そのことは、ネアンデルタール人と現在のヒトの祖先の間に交配が起こったことを意味している。また南シベリアの洞窟で発掘された、指の骨からもゲノムを採取した。その結果は未発見のDenisovan人の存在を示唆していた。この種は65万年前のネアンデルタール人と、また80万年前のヒトと共通したDNAを持っていた。パプアニューギニア人のゲノムの4.8%はDenisovanと共通していた。これは東ユーラシアで、Denisovan人と現在のヒトの祖先の間で交配が起こったことを示唆する。総合するとヒトの起源についての「leaky replacement」仮説、つまり100万年前にアフリカ以外で現代ヒト種が出現し、ユーラシアにおいて現在では絶滅した他種の遺伝子の流れを受けたことを意味する。ネアンデルタール人とDenisovan人のゲノムは現在人にも引き継がれている。また最後に、会話と言語の発達に関連したFOXP2遺伝子のヒトにおける進化についても述べた。ここではマウスにFOXP2遺伝子を組み込むことで、マウスの発声に変化が現れたことを示した。

Nanosynposium

The Social Human Animal

Precuneus and anterior temporal lobe reflect basic computations required for learning the social attributes of others. D. A. STANLEY et al. Caltech, Pasadena, CA
他者の性格が社交的かどうかを判断することは、社会で生き抜いていく場合に重要なことである。このような判断に側頭葉や楔前部などが関係しているという報告は多い。本研究では30名の女性被験者が、贈り主が10ドルを他者に与えるかどうかの判断をしている時の脳活動を計測した。結果では内側前頭前野などが活動していた。前部側頭葉は贈り主の蓋然性と相関し、楔前部は予期しない応答に関係していた。

A dyadic fMRI study of direct interactions between two brains. R. LEE et al. Princeton Neurosci. Inst., Princeton Univ., Princeton, NJ
デュアル・ヘッドコイルを用いて、1台のMRI(3T Siemens Skyra, EPI, FOV 500x250mm, voxel size 4x4x4mm, TR 2s, TE 30ms.)で2名の被験者をスキャンすることが可能になった。単純化のため課題は相互の見つめあいだけにした。被験者ペアは同時に開閉眼を繰り返すか、または交互に開閉眼を行った。結果では脳活動はペアの関係によって大きく異なった。内側前頭葉は互いに見つめあっている場合に活動した。TPJは他者を計算している時活動した。ACCはペアが夫婦である場合に活動した。

Positively biased processing of social feedback. C. W. KORN et al. Erziehungswissenschaften und Psycholgie, Freie Univ. Berlin, Berlin, Germany
他者からの評価に関する脳内反応を計測した。27名の被験者がそれぞれ5名づつのグループに分かれて、知り合った後に他者の性格を形容詞で評価した。スキャン中は被験者はまず自身を評価し、次いで他者からの評価を知らされた。その内容を知った後で、再度自分自身を評価した。他者からの評価が予想より良かった場合には、被験者は自身の評価をさらに上げた。しかし他者の評価が予想より低い場合は、自身の評価は変えない傾向があった。fMRIでは基底核の活動が他者からの評価と相関した。内側前頭葉は被験者自身の評価と他者からの評価の差と相関した。

Reading fiction improves reading minds: The role of the default network. D. I. TAMIR. Harvard Univ., Cambridge, MA
デフォルトモードネットワーク(DMN)と文章を読むこと、他者のこころを読むことの関連を探った。26名の被験者で、2種類の文章を読んだ時の脳活動を計測した。1つは風景の物理的状況を記述した鮮明さを変えており、もう1つは他者の心の内容を記述したかどうかの判断を伴った。内側側頭葉は鮮明な風景に、内側前頭葉はこころの内容にそれぞれ関係していた。さらに小説を読むことが多い被験者は、内側前頭葉の活動がこころの理論を関係していた。

Age-related changes to the neural correlates of social evaluation. B. S. CASSIDY et al. Dept. of Psychology, Brandeis Univ., Waltham, MA
高齢者の脳研究では能力低下ばかりが強調されているが、社会的情報処理や記憶に関しては比較的保たれているのではないか。15名の高齢者と15名の若年者が、顔写真と性格を表す文章の対を見てその人物の印象を判断した。高齢者は側頭極の活動が、社会的判断の条件で亢進していた。

Unconscious finger movement synchronization as a somatic marker of implicit social interaction. K. YUN et al. Computation and Neural Systems, Caltech, Pasadena, CA
一緒に歩いている人と歩調があったり、拍手のタイミングが同じになったりすることがある。このような身体運動の同調と社会的関係性について研究した。本研究では2名の指運動の同調を脳波計測中に調べ、2名の関係との関連を調べた。脳波の結果では後部中側頭回と楔前部が、2名の社会的交流の後に活動が亢進していた。2名の前部帯状回と下前頭回の結合性があった。身体運動の同調性の研究は社会性に関係し、自閉症などにも応用が可能である。

Society for Neuroscience, 40th annual meeting in San Diego, Nov 13-20, 2010

第40回Society for Neuroscienceは、2010年11月13-20日にかけてサンディエゴで行われた。成田-サンフランシスコと乗り継いでやっと到着、新築の真新しいホテルにチェックインし、その足で休む暇もなく隣の学会会場へ。コンベンションセンターを訪れるのは3回目とあって、私はいかにも慣れた感じの足取り。どこでレクチャーがあるか、どこでシンポジウムがあるかは先刻承知ノ介である。分厚いプログラムをもらうとぱらぱらとめくり、でもあまり熱心に読まないのが通。なぜならこの巨大学会は、事前にWEBで聴きたい項目を調べてこないと皆目見当がつかないのである。会場内は無線LANが完備されているので、どこでもインターネットOKというのも至極便利。でも昼休みなどは数千人が一斉にアクセスするので、渋滞すること極まりない。ラップトップPCを抱えながら、電源コンセントを探してうろうろするのが標準的な研究者の姿。なかでも今回は、iPadを片手にプログラムを検索している参加者が多数見られた。この学会の問題点の1つは、昼食がひどくまずいこと。何で1000円も出して、こんなにもまずい飯をくうのか分からん。私は朝スタバのクロワッサンとコーヒー、昼サラダのみ、夕はガスランプ・クオーターのレストランというスケジュールにした。広い会場内を歩き回ること、1日に何万歩だろうか?一度は万歩計を持って行って計測したい。とにかく無用に広いポスター会場などを含めて、皆さん無目的に歩き回っている。今回の参加者は31000人余との発表があった。30000人を超えれば成功の部類か。来年のワシントンでは念願の35000人超えを達成したいところである。

さて内容であるが、レクチャーを中心に個人的に興味深い発表が多かった。最初は日本人で数少ない世界に通用する研究者ヒコサカ教授が、報酬に関するサルの電気生理学的実験について話した。会場は一番大きなボール・ルームに一杯の聴衆が入っていた。英語は達者(失礼!)で、時に上半身を左右に揺らすのは緊張しているからか。自分にも経験がある。基底核と手綱核を結ぶDAニューロンの活動を詳細に検討している。終わった後の拍手の大きさが、評価の高さを示していた。まだ現役のヒコサカ教授は、ポスター会場でも頻繁に目撃された。次にハーバードの女性研究者で、精神障害のジェネティックスを専門にしている人の講演。内容的にはGWASの結果などを紹介していたが、当方はミーティングで聴いている内容と同じなのであまり新鮮味はなかった。結論として、まだ良く分からないということであった。

次のメイバーグ教授は、難治性うつ病に対する深部脳刺激の研究を詳細に語った。トロントでの症例(ニューロンに掲載された)に続いて、エモリー大でも症例を重ねていた。刺激前後の患者の様子をビデオで紹介していたが、やや暗めの人が少し明るくなったという感じである。ジストニアの様に明らかに効いているという印象は、残念ながらあまりもてなかった。また刺激部位はどうやら大脳基底部のあたり全般的に有効なようで、部位特異性にはやや課題がのこった。しかし動物実験や神経画像などを用いて、病態生理なども同時に究明する姿勢は良かったと思う。拍手もかなり大きかった。

今回の学会の中で、自分としてはアルツハイマー型認知症のアミロイド・イメージングが一押しであった。詳細は下記を見てもらうとして、PIBにかんする今までの疑問が多くの研究によって1つずつ解明されていた。基礎的研究が臨床に応用され、さらに治療と結びつき疾病予防に貢献するというニューロサイエンスのサクセス・ストーリーの1つだろう。2002年にPIBが開発されて、10年もたたずにここまできたことも驚異的である。しかし日本人研究者が、この領域であまり貢献していないように見えたことが残念である。最後に記憶研究で有名な症例HMの、生い立ちからその死までを実験結果を含めて回顧した講演も良かった。2008年に死亡した後、MGHで剖検された脳の写真などが呈示された。これなど禁止されているにもかかわらず、写真を撮る人が続出していた。

シンポジウムは、「アディクション」と「耳鳴り」と「発達ストレス」の3つが興味深かった。アディクションについては、動物モデルが作りやすいこととfMRIなどの画像研究も基底核などの関心領域が限定していることから結果が出しやすい。耳鳴りにかんしては、若年者における騒音外傷が耳鳴りの発生に大きな影響を与えていることが示された。ウォークマン以来イアフォンによる音楽の聴き方が一般的であるが、このような生活が若年者において将来的に耳鳴りを多く発生させる原因となるのではないか危惧された。発達ストレスでは母子分離などによる発達早期のストレスが、世代を超えて個体に影響を与えていることが示された。発達ストレスの結果としてオスのメス化現象が起こるというのは、何やら我が国の現状を言い当てていて妙。オーラルセッションでは、主に顔認知と自閉症の神経イメージングが面白かった。以下に発表の要約を示すが、その一部は抄録の内容を含んでいる。

Special lecture

218. Motivational Neuronal Circuits for Value, Salience, and Information

O. HIKOSAKA; Lab. Sensorimotor Res., Natl. Eye Institute, NIH, Bethesda, MD

報酬や危険に満ち溢れた世界の中で生き抜いていくには、適切な行動を選択する必要がある。そのための行動には中脳のDAニューロンが必須である。DAニューロンは報酬に対して活動し、運動を促進する。しかし何がDAニューロンを制御しているのか?Lateral habenula (LHb)が最近注目されている。報酬とDAニューロンの関係では、淡蒼球からLHbを介して腹側基底核に至る回路が重要である。腹側基底核は報酬刺激に対して反応が亢進するが、LHbでは逆に報酬に対して反応が低下する。すなわちLHbにおいて反応が逆転しているのである。LHb-DA回路は線条体ニューロンに対して報酬を求める行動を促進するように働く。しかしすべてのDAニューロンが同じように働くわけではない。Motivational valueとMotivational salienceという概念が重要である。前者は報酬に対しては反応が亢進し罰に対しては低下することで、主に腹側基底核の活動がそうである。後者は報酬と罰の区別なく共に反応が亢進することを指し、背側基底核の活動がそうである。パブロフ課題では中脳の内側DAニューロンはmotivational valueを、外側DAニューロンはmotivational salienceをそれぞれ表している。サッケード課題ではサルは多くの報酬に関する情報を持った手がかり刺激を好む傾向があった。現実世界では報酬と危険はしばしば隠れており、動物はそれらを探さなくてはいけない。この探索行動のため、salientな情報から最適な選択をするための ‘road map’を作ることが必要なのだろう。LHbとDAニューロンはこのroad mapを作成するために働いていると考えられる。

617. Toward Understanding Schizophrenia and Bipolar Disorder

P. SKLAR; Massachusetts Gen. Hospital/Broad Inst., Chevy Chase, MD

統合失調症と双極性障害は臨床的な症候が複雑でかつ多因子であること、動物モデルがないこと、病理組織の採取も困難であることなどが病因の解明を困難にしている。この数年間で最新の遺伝子技術が大規模なサンプルに対して応用され、いくつかの鍵となる発見があった。統合失調症のGWASでは、7つの遺伝子領域の関係が分かったがそのうちの5つは、今までに報告がない新しい領域であった。これらはHLA領域にあり、TCF4や中でもZNF804Aはその機能は解明されていないものの重要であると考えられている。一方で双極性障害のGWASでは、あまり見るべき結果はなかった。近い将来に大規模な全ゲノムとexomeシークエンスが、よりrareな遺伝子変異について重要な情報を与えるだろう。しかし現時点では、遺伝的知見のモデル化は困難と考えられる。

623. Tuning Depression Circuits using Deep Brain Stimulation

H. S. MAYBERG; Psychiatry and Behavioral Sci., Emory Univ., Atlanta, GA

大うつ病に対する膝下部帯状回の深部脳刺激(DBS)に関する発表である。大うつ病は人口の少なくとも10%を占め、世界的な障害と考えることができる。中でも積極的な治療によっても改善しないうつ病に対して、新しい治療法が必要である。このためには従来からの心理学的、神経化学的な理論に加えて、発達的、遺伝的、分子的、解剖学的システムレベルのモデルが必要である。DBSは、難治性うつ病に対する新しい治療法であり、気分変動や抗うつ薬の効果の解明にもつながる。最近の知見では膝下部帯状回が、うつ病の神経回路に関係していることが分かってきた。この領域がパーキンソン病などで有効であるDBSのうつ病におけるターゲットである。最初の治療群(トロント)は6名(男女3/3)で平均年齢46歳、平均罹病期間5.6年、平均発病年齢29歳、平均4.7回の大うつ病エピソードを持ち、服薬は2-7種類、ECTは6人中5人経験あり、CBTは全員経験あり、家族歴は5人にあり、メランコリーは5人にあった。DBSは130Hz、4Vで行った。術中テストでは、急性期反応として感情的に良い反応が見られ副作用はなかった。20症例の1年間フォローアップでは、反応率は55%であった。その他の治療群では14症例で1年間の反応率は64%であった。いずれも認知機能に障害はなかった。患者の治療前後でのビデオを供覧した。今はエモリー大学で行っているが、3症例では刺激をONにするとHAMDスコアが徐々に低下し、OFFにすると約2週間で上昇する。したがって永続的な効果はないようだ。その他の刺激部位として側座核や腹側基底核なども行われているが、いずれもオープン試験なので部位特異性は何とも言えない。基礎実験としてマウスでDBSを行うと、活動性が亢進したことから神経経路が重要と考えている。膝下部帯状回は脳内でもセロトニントランスポーターやNMDAの濃度が高いことが知られている、また逆にGABAの濃度は低い。今後はDTIでこの領域と、帯状回や眼窩部前頭前野の連結性を見る予定である。

722. Amyloid Imaging: Impact on the Study of Alzheimer’s Disease

W. E. KLUNK; Western Psychiatric Inst. & Clin., Pittsburgh, PA

最初にアミロイド・イメージングが発表された2002年から9年間が経過し、現在までに4000人に対して投与され多くの偉大な進歩が起こっている。アミロイド・トレーサーであるPittsburgh Compound-B (PiB)はADNIで用いられ、さらにFDAはその臨床的有用性を討議する委員会を立ち上げた。世界中で40以上の施設においてPIBを用いた生体アミロイド・イメージングが行われ、最近ではF-18でラベルされるようになっている。重要な知見としては以下のようなことがあげられる。

1) ADではPIB集積所見は神経病理学的所見と類似している。死後脳での研究では、PIBの結合度と病理学的に確認したアミロイド数との相関係数は0.8~0.9であった。しかし神経原線維変化やレビー小体との相関はなかった。現時点では、PIB陰性の患者はADではないと言ってよいだろう。24例の死後脳研究では、特異性と感受性に関して100%に近い値を示している。FDG PETによる糖代謝は認知機能と良く相関するが、PIBは相関しない。PIBとCSFのAβには相関がある。FTDの中にはPIBが強い陽性を示すものがある。DLBでもアミロイドが形成されることがあることからPIBが陽性になるが、パーキンソン病では一般的にPIB陰性である。

2) MCIの一部が高いPIB集積を持ち、この群が高率でADに変化する。MCIではPIBの分布は2峰性を示し、低い群はおそらくノイズで高い群が真のPIB陽性であろう。50~70%のMCIがPIB陽性で、彼らは約2年間の過程でADを発症していく。また他の研究では、93%のMCIがADを発症し、それらはPBI陽性であった。おそらくはPIBが初めて陽性となった後約15年間でADとなることが考えられる。

3)認知的に正常範囲の高齢者の20-40%で、PIB集積が見られる。

4) presenilin-1 mutation キャリアは線条体に異常なPIB集積がある。

5) PIB集積は患者群ではゆっくりと時間をかけて増加し、発症初期でプラトーに達する。無症候性のPIB集積例が意外な結果であったが、これは死後脳研究から予想できたことである。加齢とApoE4の因子はPIB集積に強い影響を与えている。高い教育歴は脳の予備機能と関係しており、低い教育歴の者はその予備機能が低くADに移行しやすいだろう。最後にアミロイド免疫療法を行うと、78週間の過程でPIBが低下してくることが分かった。

821. Lasting Traces: How H.M. Shaped the Science of Memory

S. CORKIN; Dept Brain & Cog Sci., MIT, Cambridge, MA

Henry Molaison (H.M.)はコネチカット州に生まれ、幼少期に頭部外傷を受けたという。しばらくしててんかんの小発作を起こすようになった。以後17年のてんかん発作歴があり、薬物ではコントロールができなかった。彼は大変まじめな性格であったが、発作のため学生生活はあまりうまくいかなかった。検査ではてんかん発作焦点の同定はできなかったが、脳外科医のWilliam Scovilleは実験的な手術を行った。それは両側性の内側側頭葉(MTL)切除術である。この時H.Mは27歳であったが、術後直ちに重度の全般性健忘になった。発作の頻度は減少したが、抗てんかん薬の服用は継続された。この症例その後50年にわたり、学術的なトピックとなる。H.M.以前にはMTLが記憶に何らかの役割を持っていることが知られていたが、H.M.症例は特に長期記憶とMTLの関係を決定づけた。彼は重度で継続的な、出来事や事実の意識的な想起に関する障害を持っていた。さらにそれはほとんどの知覚領域で確認され、練習によっても改善しなかった。一方で短期記憶は正常で、20秒間程度は記憶を保持することができた。彼の障害は短期記憶を長期記憶に転送することであり、この両者はそれぞれ異なった脳システムで営まれていた。記憶以外の知的機能は正常であり、記憶以外の知能テストでは平均以上であった。言語や知覚は正常で、精神症状もなかった。Brenda MilnerはHMの鏡像課題のエラーが、課題の記憶さえないのに3日間で改善したことを示した。H.M.の非記述的記憶(運動学習やプライミングなど)は正常であった。さらに彼は手術以前の自伝的記憶に障害があったが、世界に関する一般的記憶は正常であった。HMは2008年に死亡したが、最後はナーシングホームで認知症状態であったらしい。高血圧などもあり、生前のMRIでは複数の梗塞巣が認められた。彼は解剖され、死後脳はMGHでMRIや病理学検査が行われた。

Symposium

111. The Critical Role of Cues and Contexts in Reward: Relevance for Addiction.

Chair: Paul Vezina, The University of Chicago, Chicago, IL, United States

一次的な報酬とそれに関連付けられた刺激との相互作用は、従来考えられてきたよりもはるかに複雑であることが分かってきた。このシンポジウムでは報酬に関連した手がかりと文脈が、ヒトとそれ以外の動物における薬物誘発性の行動に影響を与えていることを議論した。

111.4. Cue-induced drug motivation in human addiction: new modulators

A. R. Childress; Psychiatry, University of Pennsylvania School of Medicine, Philadelphia, PA. PETで依存対象の写真を見せた研究では、依存患者ではOFCとAMGの賦活が認められた。意識下にbackward maskingを使って薬物の写真を呈示した研究では、AMGの賦活が認められた。この賦活の程度は薬物に対する感情バイアスと、再燃までの期間を予測していた。遺伝子多型を調べた研究では、DATの9 repeatでOFCの賦活が強かった。また以前に心的トラウマを持つ患者では賦活が強かった。GABA B拮抗薬であるBALCOFENが治療的に用いられることがある。

111.5. Individual differences in the attribution of incentive salience to reward cues: implications for addiction. T. E. Robinson; Biopsychology Program, University of Michigan, Ann Arbor, MI. パブロフ型条件付けをマウスで行った実験では、CS(ブザー音)に対して強く反応してレバー押しをするsign trackerという形のマウスと、US(コカイン)に反応するgoal trackerの2種類がある。sign trackerのほうがヒトにおける依存患者のモデルと考えられる。DA拮抗薬はこの学習過程をブロックする。

212. Ringing Ears: The Neuroscience of Tinnitus

212.1. Introduction

耳鳴りは約5KHz前後の周波数をもち、一般人口の10-15%の人がもっているとされる。聴力障害が背景にあることが多い。中でも最近では、早期の騒音状態への暴露が危険因子として考えられている。

212.2. Neural synchrony and neural plasticity in tinnitus and in normal hearing J. J. Eggermont; Hotchkiss Brain Institute, University of Calgary, Calgary, AB, CANADA.

ネコに騒音外傷を与えることで聴力障害を誘発し、耳鳴りのモデル動物を作ることができる。ヒトの脳波では、α波が減弱しδ波が増強していることが報告されている。騒音外傷では脳幹聴性反応の域値が亢進する。この時に神経細胞の律動性が変化し、さらに発火頻度にも変化が生じる。聴覚障害とこの神経律動性に相関関係がある。高周波数ノイズを与えると、聴覚障害が改善することがある。Norena AJ, Gourevitch B, Aizawa N, Eggermont JJ (2006) Spectrally enhanced acoustic environment disrupts frequency representation in cat auditory cortex. Nature Neuroscience 9:932-939.

212.3. Age-related changes in inhibitory circuits in the auditory system: implications

for normal hearing and tinnitus D. M. Caspary; Dept Pharmacology, Southern Illinois Univ Sch Med, Springfield, IL.

耳鳴りは慢性疼痛や幻肢痛などと同じく、deafferentation syndromeと考えられている。老化性変化による聴覚障害に原因がある。Gap detection課題を行うと耳鳴りの検査に有効である。MGBでGABA受容体に変化が生じている。Wang HN, Brozoski TJ, Turner JG, Ling LL, Parrish JL, Hughes LF, Caspary DM (2009) Plastic Glycinergic Changes in Dorsal Cochlear Nucleus of Rats with Behavioral Evidence of Tinnitus. Neuroscience. 2009 164:747-59.

212.5. Tinnitus: A problem of ear and brain

J. R. Melcher; Massachusetts Eye & Ear Infirmary, Harvard Medical School, Boston, MA.

内耳や聴覚神経などの抹消性の障害だけでは、耳鳴りの原因は説明がつかない。fMRI

で耳鳴り患者にノイズを与えた場合に、下丘の賦活が亢進していた。また1次聴覚野のHeschl回では、50dBのノイズに対して特に強く反応していた。Melcher JR, Levine RA, Bergevin C, Norris B. (2009). The auditory midbrain of people with tinnitus: Abnormal sound-evoked activity revisited. Hearing Research 257: 63

312.Transgenerational Inheritance and Epigenetics: Animal Models of Neuropsychiatric Disease.

312.2. Transgenerational impact of postnatal social enrichment via maternal and paternal transmission F. A. Champagne; Department of Psychology, Columbia University, New York, NY.

母子分離は慢性ストレスのモデルになるが、その影響が3世代後まで及ぶことをマウスを用いて研究した。つまり最初に妊娠中のマウス(F0)が出産したのち、母子分離を行いその分離された子マウス(F1)は通常の生育の後に妊娠し出産する。この生まれた子マウス(F2)は母子分離されずに通常に生育され、さらに妊娠出産した子マウス(F3)を調べるのである。F1からF3にわたり、強制水泳テストでの異常や衝動性亢進、社会的不安の増強などが確認されている。CRF1Rの発現は変化はなかったが、CRF2Rの発現が視床下部や傍室核などで低下していた。またCRF2R遺伝子のメチレーションの低下が、F1とF2の精子や脳で起こっていた。Curley JP, Davidson S, Bateson P, Champagne FA. (2009) Social enrichment during postnatal development induces transgenerational effects on emotional and reproductive behavior in mice. Front Behav Neurosci. 3:25.

312.3. Transmission of the effect of postnatal stress on offspring behavior across generations in the mouse I. M. Mansuy; Brain Resch Inst, University/ETH Zurich, Zurich, SWITZERLAND.

胎児のHPA axisの発達についての研究では、満期前出産ではコルチゾール値低下があり、脳形態の異常も認められる。出産前からコルチゾールを与えておくとこれを防ぐことができる。Franklin and Mansuy 2009 Epigenetic inheritance in mammals: Evidence for the impact of adverse effects, Neurobiol Dis

312.4. Maternal stress and glucocorticoids: programming neuroendocrine function and behavior across generations S. G. Matthews; Department of Physiology, Faculty of Medicine, University of Toronto, Toronto, ON, CANADA.

出産前のストレスはF1のオスに影響を与え、これにfeminization(メス化現象)を起こす。さらにF2にも同様の現象が認められている。疫学的にはデンマークの138万人の出生に対する調査で、第1トリメスターにおけるストレスが統合失調症の発症率を高めることが報告されている。Matthews SG and Phillips DI, 2010, Transgenerational inheritance of the stress response: a new frontier in stress research. Endocrinology 151:7

Oral session:

Visual perception, face:

834.6. Representation of facial motion and emotional expression in macaque superior temporal sulcus. N. FURL; Lab. of Neuropsychology, NIMH-NIH, Bethesda, MD

サルのfMRIで顔の動画刺激を用いて実験した。最初に顔パッチを同定するため、顔や場所や物体の写真を呈示した。次いで動画と静止画でネガティブ、ポジティブ、ニュートラルの表情を呈示した。STSでは動画で特に反応が亢進していた。静止画と動画では顔認知の脳内システムがことなっている可能性が示唆された。

834.7. Robust representation of individual faces in the right human occipito-temporal cortex: Evidence from steady-state visual evoked potentials. B. ROSSION; Univ. catholique Louvain, Louvain-la-Neuve, Belgium

steady-state visual evoked potentials (SSVEP )というEEGの手法で、顔の反応をvisual adaptationで研究した。3.5Hz(faces/second)の周期で顔刺激が変化する様子を見ている時に、EEGが計測された。FFTを行うと3.5Hzとそのハーモニックの7Hzと10.5Hzにおいて後頭側頭領域でパワーが亢進していた。右半球の活動は異なった顔呈示された場合に強くなった。顔刺激の大きさを変化させても同様の結果であったが、倒立顔では同じ効果はなかった。

834.8. Task-irrelevant stimulus coherence determines face – noise interactions: An ERP study. G. KOVACS; Tech. Univ. Budapest, Budapest, Hungary

顔の性別判断時にさまざまなノイズパターンを加えてERPを計測した。N170成分は減弱するがノイズパターンによる差はなかった。しかしP200成分はノイズパターンがランダムな場合に強く変化した。この結果はランダムなノイズのほうが、時間的に後期の線分にまで影響を与えることを示した。

834.9. Superior temporal sulcus extracts perceived gaze direction from combinations of head orientation and eye position. J. D. CARLIN; MRC Cognition and Brain Sci. Unit, Cambridge, United Kingdom

fMRIを用いてさまざまに頭と目の位置を変えてSTSの活動を計測した。右STSの活動は、頭と目の位置ではなく視線方向に関係した。

834.12. Using high resolution DTI to detect impaired brain connectivity in congenital prosopagnosia. L. ZEIFMAN, Psychology, Carnegie Mellon Univ., Pittsburgh, PA

先天性相貌失認の患者は人口の2.5%をしめるといわれている。この患者を対象に高解像度のDTI(50方向)を行い、inferior longitudinal fasciculusの異常を認めた。

834.13. Confounding of prototype and similarity effects in fMRI studies of face and object representation. G. K. AGUIRRE; Univ. Pennsylvania, PHILADELPHIA, PA

類似性効果とプロトタイプ効果をfMRIを用いて研究した。類似性効果では非類似度が高いほどadaptation効果が少なくなっていた。プロトタイプ効果では、平均的な刺激の種類から離れるほど反応が大きくなった。この2つが通常のfMRI実験では混同されていることを示した。

Autism:

726.3. Reduced coherence of intrinsic connectivity networks in children with autism spectrum disorders. J. D. RUDIE; UCLA, Los Angeles, CA

今までの成人ASDでrsfMRIを行い健常者と比較した研究では、default mode networkの活動が患者群で低下していた。本研究では小児ASD患者を用いて、同様の実験(6分間の安静状態)を行った。PCCをseedとした解析では、患者群における結合性の低下が認められ、発達における遅延が疑われた。

726.4. Ventral striatum hyperactivates to highly salient, self-selected, non-social rewards in autism. D. SHIRINYAN; UCLA, LOS ANGELES, CA

健常児では腹側基底核など報酬系を賦活する刺激が、ASDでは同じ効果を示さないことが知られている。これがASDで普遍的に認められる現象なのか、または他に報酬系を刺激するような対象があるのかを検討した。被験者または親から報酬となる刺激を聴取して呈示した。結果としてASDでは自分が好む刺激に対しては、基底核領域の反応性が高まっていることが分かった。

726.5. Atypical maturation and functional segregation within the posterior superior temporal sulcus in autism spectrum disorder. P. SHIH; Dept. of Psychology, San Diego State Univ., San Diego, CA

pSTSの発達をfMRIで検証した。pSTSは2つの下位領域に分離されているが、ASDでは分離が不明瞭であった。

726.6. A comparison of overt visuospatial orienting abilities in children with autism, Williams syndrome, specific language impairment, perinatal brain lesions, and typical development. B. KEEHN; 1San Diego State Univ., San Diego, CA

gap-overlap taskを用いて、注意と運動機能との関係を眼球運動を指標として調べた。High-functioning autism (HFA), Williams syndrome (WS), specific language impairment (LI), pre- or perinatal stroke (FL), typical development (TD)が対象である。WSは正解率が低く、HFAは注意を離すことが困難であった。FLでは反応時間が遅延した。LIはTDと大きく違わなかった。HFA, WS, FL, LIは疾患に特異的な注意の障害を示した。

726.7. Atypical lateralization of networks in autism spectrum disorder as detected by independent component analysis. R. C. CARDINALE; Psychology, San Diego State Univ., San Diego, CA

visual search taskとfMRIを用いて、ASDと健常者で脳機能を比較した。ICA解析で求められた各ICの側性を検討した。ASDでは右半球優位のIC(superior medial gyrus, precuneus, calcarine gyrus, middle temporal gyrus, superior temporal gyrus)と左半球優位のIC(inferior frontal gyrus, middle occipital gyrus, inferior parietal lobe, angular gyrus)があった。ASDでは側性指標とIQや症状評価尺度に相関を認めた。健常者では1つのIC(postcentral gyrus middle cingulate cortex right precentral gyrus)が左半球優位であった。

Society for Neuroscience, 39th annual meeting in Chicago, Oct 17- 19, 2009

さて今回はニューオリンズの洪水の後アトランタでの開催を経て、中西部の大都市であるシカゴにその地を移した。シカゴという都市は、はっきりいってあまり面白い都市ではない。観光でこの地に来る日本人は限られていると思われ、そのためかオヘア空港には免税店もないのである。多分仕事をするにはいいところなのだと思う。例えばシカゴ大学は、世界でも数多くのノーベル賞学者を輩出している大学である。私が共同研究を行っているノースウェスタン大学も医学部ではニューロサイエンス専攻があり、著名な雑誌に論文を掲載している。
SFNも昨年くらいまではやや参加人数が減少傾向にあったが、今年はどうだろうかと気をもんでいた。シカゴ市内にあるコンベンションセンターでは、その心配を払拭するような数の参加者があふれていた。最終的な参加者数はおそらく3万人前後と推測するが、その活気はまだ保たれているように感じた。お馴染みのシャトルバスと広大なポスター会場、長蛇の列のスターバックスや不味いランチなども同じであった。
学会のテーマとしてはアルツハイマー病のアミロイド仮説が一段落した後の、次なるターゲットを模索している最中と思われた。ニューロサイエンスのテーマは広大だが、中でも自閉症に関するセッションがやや多くなったような気がする。脳画像関連の発表でも患者群と健常群と、さらに患者同胞をも対象にした実験が多くみられた。なかなか日本では遂行することが困難な類の研究である。また出生直後の心理社会的ストレスが、脳機能や形態に与える影響なども報告されていた。これらは被虐待児や孤児などを対象とした研究で、長期的なフォローアップからさらに興味深いデータが得られるのではないだろうか。
来年は2010年11月13日から17日までカリフォルニア州サンジエゴで開催される。以下に参加した3日間で聴講した発表の要旨を示すが、その内容は抄録集からの引用を含んでいる。

DAY1

○ Dialog between society: 1. Magic, the Brain, and the Mind
E. MEAD; Snowmass Village, CO, A. ROBBINS; Las Vegas, NV
この対話シリーズの今回は、アポロ・ロビンスとエリック・ミードという2名の有名なマジシャンである。前者は相手から何も気がつかせずに身に着けている時計や財布を盗み取る“pick pocket”の名者で、後者は相手の記憶や注意を自由に操作して錯覚を起こさせる“読心術”を得意とする。彼らはイリュージョンやマジックに注意や記憶、知覚などの要素がいかに大事であるかということについて実際にパフォーマンスを行って示した。会場からの質問で笑ったのは、ヒト以外の動物を相手にマジックを見せたことはあるかというものだった。確かないと答えたと思うが、象かなにかを前にパフォーマンスしたマジシャンがいたようなことを言っていた。

○ Nanosymposium: 18. Emotion and Affect
情動と感情に関する研究が雑多な感じで発表されていたセッションである。動物実験からヒトを対象としたfMRI、さらにコホート研究などである。最も興味深かったのは、高齢者のうつ病でよく見られる白質病変が、うつ病が原因で生じるのかどうかを多数例のフォローアップにより検証したものであった。

18.1. Prolonged and site-specific over-expression of corticotropin releasing factor reveals differential roles for extended amygdala nuclei in emotional regulation. L. REGEV; Weizmann Inst. of Sci., Rehovot, Israel
CRFはストレスに反応して上昇し、また不安障害やうつ病にも関係している。ストレスにより扁桃体の一部でCRFが過剰に発現していることをlenti virusesを用いて調べた。マウスで4ヶ月にわたり扁桃体などでCRFを過剰に発現させた後に、行動データを調べた。予想とは反対に扁桃体での過剰なCRF産生は、不安を減少させた。ウイルスを扁桃体に注入して過剰なCRFを産生させるという特殊な手法を用いた研究のようである。

18.2. Neural activity in the mouse basolateral amygdala relating to uncertainty and anxiety. D. V. WANG; Inst. Brain Functional Genomics, East China Normal Univ., Shanghai, China
条件付けと扁桃体のBL核の関係は良く知られているが、不安に関しては扁桃体のどの領域が関係しているかまだ定かではない。マウスを新奇な条件に置いて、扁桃体のBL核からニューロンの反応を調べた。不確定ニューロンはマウスが新奇な条件に置かれたときに一過性の興奮を示し後に減少した。またこのニューロンは元のケージに戻されたときも少ないながら反応を示したことから、不確定な条件に一般的に反応すると考えられた。不安ニューロンはゆっくりと興奮してピークに達し、同時にマウスは不安様の行動を示した。これらのニューロンは条件付け課題には反応しなかった。これらは扁桃体の中でも不確定性や不安の情動的処理に関係すると思われた。通常の嫌悪条件づけには反応せずに、このような特殊な状況で活動が亢進するところが目新しい。

18.3. The influence of emotion regulation on risky decision-making and the neural circuits of reward. L. N. MARTIN; Psychology Dept., Rutgers Univ., Newark, NJ
報酬に条件付けされた刺激は情動的な反応を誘発し、しばしば意思決定に大きな影響を与える。感情を抑制する能力がこのような意思決定のメカニズムを左右することが報告されている。このfMRI実験ではスロットマシンの絵を見て、リスキーだが高額なギャンブルと安全だが安いギャンブルを行った。また被験者は感情をそのまま受け入れる場合と、リラックスする場合が指定された。リラックスできる被験者だけにスキャンが行われ、腹側基底核がリラックスで賦活の減少が見られた。報酬系と情動の相互作用というところが新奇な内容である。

18.4. Depressed mood predicts longitudinal increases in white matter hyperintensities in older men. V. M. DOTSON; Lab. Personality and Cognition, Natl. Inst. Aging, IRP, Baltimore, MD
虚血性変化に伴う白質病変と高齢者のうつ病の関係は良く知られている。しかしうつ病が白質病変の原因なのか結果なのかについては分かっていない。高齢男女に置いて、縦断的にこれらの関係について調査した。90名の認知機能が正常な57歳以上の男女が、8年間のフォローアップ調査をされた。初回、最終回、さらに中間での3回で検査が行われた。白質病変とうつ病症状の関連について、男女別に統計処理が行われた。男性ではうつ病症状が縦断的な白質病変の予測因子となっており、逆に白質病変はうつ病症状を予測しなかった。女性の結果にはこのような有意なものはなかった。従って白質病変は男性においてはうつ病の結果であり、うつ病に対する治療が白質病変を予防できる可能性が示唆された。これはなかなか大変な研究で、白質病変とうつ病の因果関係が統計的に示されたことは有意義である。

18.5. Agomelatine facilitates positive vs negative affective processing in healthy volunteer models. C. J. HARMER; Univ. of Oxford, Oxford, United Kingdom
Agomelatineは新しい種類の抗うつ薬で、臨床的には単極性うつ病に有効である。健常者においてこの薬が情動処理に関係するかどうかを調べた。SSRIなどで用いられたテストバッテリーを使い、健常者に25mgと50mgの薬を7日間投与した後の結果を調べた。25mg投与では主観的な悲しさが減少し、悲しい表情の認知が低下し、ポジティブな記憶が良くなった。これらの結果は健常者における反応が抗うつ薬のスクリーニングに有用である可能性を示唆する。この抗うつ薬はよく知らないが、他にもpfMRIのセッションがあることからこの手の手法が注目を集めるかもしれない

18.6. Hydrocortisone administration selectively enhances anterior cingulate activation during viewing of sad facial expressions. W. C. DREVETS; SNMAD, NIMH, NIH, Bethesda, MD
コルチゾール投与で情動刺激に対する反応が変化することから、その脳内反応をfMRIを用いて検証した。15名の健常者にコルチゾールとプラセボを静脈投与し、表情認知課題を行っている時の脳賦活を調べた。恐怖VS中性ではコルチゾールの効果は有意ではなかった。唯一ACCの悲しみVS中性の賦活がコルチゾールでプラセボより有意に亢進していた。笑顔条件でもコルチゾールで有意な結果はなかった。結局コルチゾールに関係した有意な反応は検出されていない。

○ Special Lecture 8. Origins of Abstract Knowledge: Number and Geometry. E. SPELKE; Harvard Univ., Cambridge, MA
ヒトの脳の中で数字や四角などの概念はどのように形成されているのだろうか。幼児、動物、子供、成人などをまた異なった文化において研究することで、物体、概数、空間方向性には基本的認知システムがあることが分かってきた。これらの延長線には抽象的数学概念が存在する。こんなことをしているのは、フランスのDehanneだけかと思っていたが、やはり世界は広く同じテーマの人もいるのだなと感心した。

DAY2-1

○ Nanosymposium 118. Neuropathology and structural neuroimaging studies of schizophrenia.
MRIや死後脳を使った研究で、最近では初発例や服薬などをコントロールしたものが多い。なかなか本邦ではここまで統制することは困難である。結果はしかしあまり頑健ではなく、また場所もあまり一定しないようである。形態的変化の結果だけで精神疾患の病態に迫るというのは、やや困難があるように感じるが。

118.1. Anterior cingulate and paracingulate abnormalities in schizophrenia. J. J. LEVITT; Psychiatry, VA Boston Healthcare System, Harvard Med. Sch., Brockton, MA
帯状回はドーパミン系が支配し報酬や自己モニタリングと関連がある。筆者らは既にACCの灰白質体積がSCHで減少していることを示した。今回はそれぞれ28名の患者と健常者がMRIで調べられた。Freesurferを用いて脳領域の区分を行った。ACCの各脳領域の体積には有意な差はなかったが、右半球のparacingulate sulcusがSCHで出現頻度が多かった。脳溝の多さと灰白質の体積の関係も明らかになった。このparacingulate sulcusというのは性格傾向にも関係していることがすでに報告されており、疾患自体に関係するのかどうかは分からない。

118.2. Gray matter thinning in frontal and anterior cingulate cortices is associated with course of illness in adults with bipolar type I disorder. L. C. FOLAND-ROSS; UCLA, Los Angeles, CA
PFCとBPの関係が指摘されているが、過去の研究では結果がまちまちである。そこで今回は検査の時点ではeuthymicであり、かつ過去にもLi製剤の投与を受けていないBPの症例が集められた。34名の患者と32名の健常者が1.5TのMRIで調べられた。患者の33%は未治療であった。PFC(特に眼窩部、外側腹側部、内側)やACCの厚みは、BPではCTLよりも有意に小さかった。過去の病相期の長さとPFCの厚み、過去の未治療期間とACCの厚みが相関した。ACCと情動との関係からは興味深いが、それほど頑健な結果とも思われない。

118.3. Mapping cortical width and neuron density in human cerebral cortex. J. F. SMILEY; Nathan Kline Inst., Orangeburg, NY
画像研究では精神疾患で皮質の減少が報告されるが、これは神経細胞の萎縮または細胞数の減少を意味する。これは死後脳研究でしか明らかにはできない問題である。この研究では新たなソフトウェアを開発し、11名のSCHと10名のCTLで側頭葉平面の厚みを比較した。CTLでは尾側のPTで左>右の左右差を認めた。SCHでは特に左半球表層のⅠ~Ⅲ層において有意に薄かった。CTLでは左右差はもっぱら左半球において細胞間の距離が大きいことで説明できた。SCHの表層部分ではニューロンの密度は同じであることから、細胞数に変化が起きている可能性があった。死後脳でPTの異常がなかったという結果も最近になって報告されており、これもどれほど頑健なのか分からない。

118.5. White matter microstructure in unmedicated first episode patients with schizophrenia and psychotic bipolar disorder. L. H. LU; Roosevelt Univ., Chicago, IL
白質病変は精神疾患でよく見られるが、その意義は不明である。初回発症でかつ合併する他の精神疾患がなく、未治療の患者(21名のSCH、13名のBP+psychosis、20名のCTL)の白質についてFA画像のVBMとTBSSを用いてを比較した。FA値は広範な領域で群間差があり、SCH=CTL>BPという結果になった。TBSSの結果はVBMに比べて有意差が減少していた。特に初回発症時のSCHでは白質に明らかな異常がないことが分かったことから、服薬や予後などとの関連が指摘される。SCHでは発症時には明らかな白質病変はないとのことだが、経過中にかなり広くFA値の低下が起こってくる。これは治療によるものだろうか。

118.6. Morphometry of the amygdala, basal ganglia, hippocampus and thalamus in bipolar disorder and schizophrenia. D. MAMAH; Psychology, Washington Univ., St. Louis, MO
BPとSCHで脳形態をFreeSurfer-initiated Large Deformation Diffeomorphic Metri Matching (FS+LDDMM) を用いて比較した。BPは12名、SCHは11名、CTLは11名であった。扁桃体と海馬の体積を比較したが、有意差は認められなかった。しかし表面の形態に変化が認められた。表面の形態変化というのは以前からよく報告されるが、それの意味づけは何なのだろうか。

DAY2-2

○ Nanosymposium 120. Early life experience and the emotional brain.
養育環境が脳機能や形態に大きな影響を与えていることを、MRIを用いてヒトやサルで検証している。これらはかなりインパクトがある研究結果であろう。これらの児童の長期的発達や知能なども含めた、縦断的な研究が今後出てくるに違いない。

120.7. The correlates of early experience on structural brain development. J. L. HANSON; Psych, Univ. Wisconsin, Madison, WI
出生直後の経験が神経発達に大きな影響を与えている。中でもネガティブな経験が与える影響が大きいことが最近になって報告されている。ヒト以外の動物では不適応な生物学的および行動的変化が、初期の養育環境のような経験に関連している。これらを直ちにヒトに当てはめることは困難だが、施設での養育経験や身体的虐待などがそれに該当する。9-14歳の大きなサンプルの青年期の被験者が集められた。幼少児期に不適切な養育を受けていた子供(平均12歳)にMRIで脳形態の変化があることを示した。中でも眼窩部前頭葉に変化が大きくLife Stress Indexとの有意な相関が認められた。右の眼窩部は虐待を受けていた子供で小さくなっていた。また扁桃体も小さくなっていた。興味深い研究で、養育環境が脳形態に与える影響を明らかにしている。米国では研究がやりやすい環境にあり、今後このような発表が増えてくる可能性は高いだろう。

120.8. Stress induced changes of behaviour, brain activity and neuronal structure can be partly normalized by treatment with methylphenidate. J. BOCK; Otto-von-Guericke University, Inst. of Biol., Magdeburg, Germany
ストレス下におかれたラットが、活動亢進や注意障害などを起こすことがある。これらは前頭葉のドーパミン系の障害と関連が深い。これらの症状はADHDと類似することから、methylphenidate (MP)を使った実験を行った。ラットを出生直後に親から離して養育するとコルチゾール値が上昇する。同時にFDGで計測した糖代謝も低下し、ドーパミンニューロンの数も変化している。この時には運動量も増加していることから、これがADHDのモデルになる可能性がある。このようなラットにmethylphenidateに投与すると、運動量が低下し脳のブドウ糖代謝上昇し、ドーパミンニューロンが正常化する。しかしこのラットの行動がADHDなのかどうかは、誰も分からないのである。

120.9. Susceptibility of emotional and cognitive systems to early adversity. N. L. TOTTENHAM; Psychology, UCLA, Los Angeles, CA
環境からのストレスが脳の発達に影響を与えることがある。出生直後のストレスとして孤児として養育されるということがある。このような児童ではコルチゾール値が低下しており、また孤児であった(つまり施設にいる)期間が長いほどMRIで扁桃体の体積が大きかった。扁桃体の体積は不安尺度と正の、コルチゾール値とは負の相関があった。海馬と尾状核ではそのような変化はなかった。これも2つ前の研究と類似しているが、大変興味深い。米国では比較的被験者があつまりやすいだろう。本邦ではちょっと困難だ。このような子どもの長期的予後なども、今後は発表されるに違いない。

120.10. The anxiolytic effect of environmental enrichment is mediated via amygdalar CRF receptor type 1. Y. SZTAINBERG; Weizmann Inst. of Sci., Rehovot, Israel
環境の豊富化は動物では不安を軽減する働きがあるが、この分子レベルでの解明はまだである。CRF1型受容体の変化を辺縁系で測定し、環境豊富化が不安を軽減する効果と関連するかどうか調べた。扁桃体のCRF1型受容体を計測したところ、豊富な環境では不安が低下し扁桃体(Baso Lateral)のCRF受容体数が低下した。BLAでCRF受容体の遺伝子をKOすると不安が低下した。扁桃体とCRFというのは最近の流行だろうか。

120.13. Early life stress induces morphological changes in primate brain: A follow-up analysis using deformation-based morphometry with unbiased group registration. X. GENG; NIDA/NIH, Baltimore, MD
従来のMRI研究ではヒト以外の霊長類で、初期のライフストレスは小脳虫部、背内側PFC、ACCなどの体積を増加させることが分かっている。VBMを用いてこのデータの再解析を行った。サルを出生時から6ヶ月まで母親と生育する群と(15個体)、母親以外のサルと生育する群(13個体)に分けた。これらを6ヶ月以降は一緒にさせ、24ヶ月時にMRIを行いVBMで脳形態の違いを調べた。コルチゾール値、体重、全脳体積などには差はなかった。母親以外に育てられたサルでは内側PFC、眼窩部PFC、小脳、島などの体積が上昇していた。以前のデータをマニュアル解析からソフトウェア解析にしたもののようだが、大変興味深い研究である。前のヒトの子どもを対象とした研究の霊長類版である。しかし体積がこちらでは増大しているという点が異なっている。

○ Special Lecture 112. Biological Origins of Sex Differences in Brain Function and Disease Biological. A. P. ARNOLD; Dept Physiolog Sci., Univ. California Los Angeles, Los Angeles, CA
性別は行動や生理現象や疾患への脆弱性などに関係している。哺乳類と鳥では性染色体の数に違いがある。Y染色体にある遺伝子Sryは、未分化の生殖器を男性化し表現形としての性別を形成する。しかしその他にsex chromosome effectsといわれる、細胞に独自の現象もある。ある種の鳥では生殖器の性別ではなく、歌を歌う回路の性別が優位であることもある。げっ歯類ではSryはオスの黒質で発現しており、運動機能を調節している。マウスでは生殖器の性別は性染色体と独立している。従って4種類の性別がある、この種類によって自己免疫疾患への罹患などが変わってくる。染色体と生殖器にそれぞれ異なった性別があることが興味深かった。

○ Special Lecture 200. From Synapses to Autism: Neurexins, Neuroligins, and More T. C. SÜDHOF: Stanford Univ., Stanford, CA
Neurexinはシナプス前、Neuroliginはシナプス後にそれぞれ存在する。これらが接合することで神経伝達物質のNMDAやAMDAが放出される。両者の接合は細胞内においても、さまざまな効果を発現する。NeuroliginのKOマウスではシナプス形成は正常であるが、その機能に障害がある。ASDではこのNuerexin-Neuroliginのパスウェイが不全になっており、中でもNeuroligin4遺伝子の変異が10以上の家系で報告されている。Neuroligin3KIマウスでは社会的行動が減少し、逆に空間的学習機能が亢進していた。Neurexinについて勉強できたのは良かったが、これで自閉症が理解できるのかというとやや心もとない感じであった。

○ Nanosymposium 213. Autism: Neurophysiology, systems, and family studies
自閉症を対象としたfMRIやMEGなどが発表された。単に患者対健常者ではなく、そこに発症していない同胞を入れて実験を行うことが試みられている。この同胞での結果は、患者と健常者の中間からやや患者よりに出てきている。今後はこのような実験でないと良いジャーナルには投稿できないだろう。

213.7. Can efficiency of frontal activation rescue unaffected sibs from the autism phenotype? M. K. BELMONTE; Human Develop., Cornell Univ., Ithaca, NY
家系の中で何がある個体をASDにし、個体がASDになることを防ぐのか。8名のASD、7名の同胞、9名のCTLで空間的注意に関する心理課題を行った。成績としては同胞は疾患と健常の間に位置していた。しかし生理学的には同胞は患者に近く、ASDの前頭葉活動は遅れまた延長していた。前頭葉活動は症状と関連があった。ASDと健常者の中間かややASDよりに患者同胞がいることが分かった。発症していない患者同胞を使う研究はSCHなどから始まったが、自閉症にも及んできたようだ。

213.8. Eye movement abnormalities in parents and siblings of individuals with autism. M. W. MOSCONI; Ctr. for Cognitive Med., Univ. of Illinois-Chicago, Chicago, IL
自閉症患者ではサッケードに障害があり、これらが生物学的なマーカーとして有用な可能性がある。57名の第1度親等の親族と40名の対照健常者が集められ、眼球運動が検査された。第1親等の家族では運動値の分散が大きく、特に右方への眼球運動に変化があった。このような障害は橋-小脳の障害が関与しており、また側性があることは何らかの脳機能の左右差を示している。これも家族を用いて自閉症のフェノタイプを探るというもの。なかなか本邦では困難な種類の研究である。

213.9. Susceptibility and protection factors for language development in autism: MEG measures of neural resource allocation in auditory language cortex in children with autism, clinically typical siblings, and typically developing controls. N. M. GAGE; Cognitive Sci. Univ. of Calif , Irvine, Irvine, CA
20名のASDと20名の健常者(7-14歳)でMEGを行い、皮質聴覚野の同定を行った。短時間の話声と非話声の条件で、タスクはなにも行わなかった。健常者では非話声では反応の減少があり、話声では上昇した。ASDでは逆に非話声に反応するM100が亢進し、話声には減少していた。このようにASDでは話声に対する注意のシフトがあり、その傾向は患者の同胞でも認められた。これも同胞で患者と類似した結果が出ている。

213.10. Protective gene variants in unaffected siblings of autistic individuals. A. M. PERSICO; Univ. Campus Bio-Medico, Rome, Italy
AGC1遺伝子はミトコンドリアでアスパラギンとグルタミンの輸送に関わっている。そのSNPの3箇所についてmRNAレベルと死後脳で側頭葉の灰白質体積を検討した。よく分からなかった。

213.11. Atypical parietal lobe activation during visuospatial processing in autism. K. O’HEARN; Univ. of Pittsburgh, Pittsburgh, PA
自閉症の視空間的機能をfMRIを用いて、11名の高機能自閉症と11名健常者で検査した。数唱課題での頭頂葉の賦活を調べたところ、頭頂葉とACCでは正常と変わりはなく島とPFCでは群間で有意差があった。あまり頑健な結果ではなかった。

213.12. Neural correlates of deficient saccadic inhibition are related to restricted, repetitive behavior in autism spectrum disorders. Y. AGAM; Psychiatry, Massachusetts Gen. Hospital, Harvard Med. Sch., Charlestown, MA
10名のASDと14名の健常者でプロ・サッケードとアンチ・サッケード課題を用いたfMRI実験を行った。ASDではエラーの数も多かった。プロとアンチ・サッケードの差分では、ASDでFEFとACCの賦活が低下していた。これらの信号値は臨床症状と相関していた。ASDではFEFとACCの連結性が低下していた。サッケードの抑制機能の障害がASDに特異的であった。連結性の解析は最近ではSCHでも多く取り入れられている。

DAY3

○ Special Lecture 298. Eyes Wide Open, Brain Wide Shut? (un)Consciousness in the Vegetative State. S. LAUREYS; Univ. of Liege, Liege, Belgium
昏睡、植物状態、最小意識状態、閉じ込め症候群などについて、その病態の違いを説明した。Awareness(覚醒度)とarousalの違い。内的覚醒と外的覚醒とがある。FDG-PETでは深い睡眠では60%の、麻酔下では50%の代謝低下がある。楔前部は意識のHubとなるところである。意識は一次感覚野にはなく、むしろ視床と皮質のネットワークにある。微小な感覚を知覚するときとしないときでは、IPLとPFCの活動が異なっている。デフォルトモード(DMN)が内的覚醒に関係している。植物状態でもDMNは活動している。臨床的には昏睡とされた40%が誤診であった。植物状態患者では運動をイメージさせるとfMRIで賦活があった。閉じ込め症候群ではERPによる認知課題に対する反応が見られた。これらのfMRIや脳波に対する反応性は、患者の予後も予想することが可能であった。最小意識状態ではfMRIで痛みに対する反応が見られた。治療的にはamantadinや深部脳刺激に対して反応が見られた。従ってこれらの患者に対する治療や検査には、倫理的な問題が付随している。大変示唆にとんだ話で、発表の中で意識障害に関するアンケートなども実施していた。

○ Nanosymposium 402. Schizophrenia: Human functional neuroimaging studies 1
SCHに対するfMRIなどをまとめたセッションであるが、内容として新奇なのは機能的連結性を見ている実験が多いことである。しかしこれが真の意味で連結性なのかどうかは誰も分からないのである。またこれもやはり、同胞を被験者に入れるのが、当然になってきている。

402.1. Working memory, default mode, and temporal lobe functional network abnormalities in schizophrenia. K. M. HAUT; Psychology, Univ. of Minnesota, Minneapolis, MN
SCHの脳機能は領域間の連結性に障害があると考えられている。BIRNプロジェクトのデータベースから、90名の患者と92名の健常者のデータを解析に用いた。課題はオドボール課題などで、解析にはFSLによるICAを用いた。側頭葉成分とdefault mode network (DMN)成分、ワーキングメモリー成分を抽出した。これらの成分の中で、SCHはいずれも多くの領域で連結性が低下していた。これらの結果から、判別分析で患者と健常者を区別できた。かなり多くの被験者数で結果は頑健なようだが、また連結を検討したということも最近の傾向に一致している。しかし連結性の低下はあくまで機能的なもので、実際に線維連絡が少ないのかどうかなどの検証が必要だろう。うがった見方をすれば、単に患者で賦活の程度が少ないだけではないかという疑問もある。

402.2. Elicited and self-generated behavior in first episode schizophrenia and bipolar disorder with psychosis: An fMRI study. S. KEEDY; Dept Psych, Univ. Illinois-Chicago, Chicago, IL
初回発症で未治療のSCHとBP+psychosisでサッケード課題を用いたfMRI実験を行った。両疾患群では健常者よりもサッケードが早かった。SCHではDLPFCで活動が低下していたが、BPではそのような所見はなかった。むしろBPでは上前頭回で活動が低下しているなど異なった結果を示していた。初回発症で未治療というのは特筆すべきである。SCHでは賦活が低下していたが、BPではそうではなかったとのことだがこれは前にあった形態的変化と逆の結果になってしまうが。

402.3. Aberrant functional connectivity within networks underlying cognitive control in patients with schizophrenia and unaffected siblings. F. SAMBATARO; CBDB,NIMH, Natl. Inst. Hlth., Bethesda, MD
17名のSCHと17名の同胞、17名の健常者を対象に、Flanker課題とfMRIを行いICAで機能的連結性について調べた。ICAでは31個の成分が抽出されたが、中でも2個の成分が認知機能と関係した。これらは前頭葉成分と前頭-帯状-頭頂成分であった。これらをさらにANOVAにかけたところ、連結性はおおむねSCH<同胞<健常者の順であった。従ってSCHは脳領域間の連結性の障害と考えられ、さらに同胞にも類似した障害があった。これも患者同胞を使った実験であるが、連結性まで見ていることが目新しい。

402.4. Extended visual-spatial training enhances cingulate-DLPFC connectivity in schizophrenia. H. H. HOLCOMB; Maryland Psychiatric Res. Ctr., Univ. Maryland, Baltimore, MD
練習することにより脳領域間の連結性が高まることが知られている。10名のSCHと10名の健常者で遅延マッチ-サンプル課題を2週間にわたり4回の練習セッションを行った。ACCシードからの連結性を調べ、さらに練習による連結性の変化を見た。群間で比較したところSCHと健常者ではその程度が異なっていた。練習と連結性を合わせたところが新奇である。

402.5. Differential functional connectivity in patients with schizophrenia during classical conditioning. A. O. DIACONESCU; Dept Psychol, Rotman Res. Inst., Toronto, ON, Canada
条件付け課題を用いてSCHと健常者で、基底核とPFCの連結性を調べた。SCHでは条件付けによるCS-に対する皮膚電気反応が低下していた。健常者ではCS+における基底核とPFCなどの連結性が亢進していた。しかしSCHでは、これらの連結性はCS-で亢進していた。これも連結性を見ているが、SCHでCS-(CS+ではなく)に対する反応が変化していることの意味づけが良く分からなかった。

○ Minisymposium 396. Developmental social neuroscience
発達過程にある患者を用いて、主に社会脳に関連したfMRI実験を集めたセッションである。まあそれなりの結果ではあるが、意味づけや発展性に関してやや疑問もある。聴衆の数は多いほうであった。

396.5. Disturbances in the development of neural circuitry in response to emotional faces in autism spectrum disorders. C. Monk; Psychology, University of Michigan, Ann Arbor, MI.
平均年齢14歳のASDを用いて表情認知課題を行い、扁桃体の活動をfMRIで計測した。呈示時間を短くして250msecとしたところ、悲しみ表情でベースラインと比べてASDでは扁桃体の活動が亢進していた。若年のASDでは年長のASDよりも扁桃体の活動が亢進していた。Monk, C.S., Telzer, E.H., Mogg, K. et al. (in press). Amygdala and Ventrolateral Prefrontal Cortex Activation to Masked Angry Faces in Children and Adolescents with Generalized Anxiety Disorder. Archives of General Psychiatry, 65, 568-76.

396.6. Neural correlates of social and nonsocial decision-making in children with anxiety. A. Galvan; Psychology, UCLA, Los Angeles, CA.
記述的文章と顔画像を組み合わせて、確かな記述と不確かな記述の場合とで脳活動を比較した。不安傾向の強い子供では内側PFCの活動が亢進していた。
Galvan A, Hare TA, Voss H, Glover G, BJ Casey (2007). Risk-taking and adolescent brain: who is at risk? Developmental Science 10:F8-F14

396.7. Social decision making in adolescent. B. Guroglu; Dev Psychol, Leiden Univ, Leiden, NETHERLANDS.
最後通牒ゲームと信頼度ゲームを用いて青年期の脳活動を調べたところ、年齢が上がるにつれて拒否する反応が多くなった。fMRIでは側頭―頭頂移行部の活動が亢進すると拒否反応が多くなっていた。

Society for Neuroscience 38th Annual Meeting in Washington D.C., from Nov 15 to 19, 2008

気候は最初の2日間は穏やかで半袖の人もいたが、その後は急激に寒くなりコートが手放せない日々だった。前の週には大統領選挙があったはずだが、市内にはその雰囲気は既にほとんどなくなっていた。知人の中には、ホテルでオバマ次期大統領らしき集団を見かけたというのがいた。車は中の見えないリムジンで、すぐ後ろには救急車が常時待機しているらしい。街中にニューロサイエンスのバスが走り始めると、また今年も始まったなあと感慨が深くなる。極めて効率的に組織化された大会であるが、参加者が多すぎてホテルが取りにくいという欠点もある。

3年前のワシントンDCでの大会では、参加者数が史上最高の35000人に上った。その後やや減少したが、今回また首都に帰ってきて人数がどの程度伸びるかが1つの焦点でもあった。会場は市内中心部にある巨大なコンベンションセンターで、会場内の移動には長くて15分はかかる。もっとも大きなホールDは一体何人収容できるのか分からないほどの、広大な面積を誇っている。ここは昼飯がまずいことでも有名で、スターバックスが1軒しか出店していないのでいつも長蛇の列だった。午前中のセッションは8時半から始まり、午後5時にはポスターセッションが閉まる。

まとめ

今回の参加者数は、途中経過で31000人余と表示されていた。極めて巨大な学会であるが、史上最高を更新するかは微妙なところである。以前はCaucasianの参加者ばかりであったが、次第にAsianが増えてきて最近ではAfrican-Americanなどいかにもmulti-culturalである。話題としては、アルツハイマー病のアミロイド関連が少なくなっていた。もちろんスライドやポスターまではチェックしていないが、大きなレクチャーやシンポジウムには見られなかった。それに変わるメジャーな神経科学的トピックはまだ出てきていない感じである。精神疾患に関しては上に示したように、まだそれほど有望な仮説がない。それらにはマウスモデルが必要になるが、物質依存を除いてはうつ病にしても統合失調症にしてもまだ有効なモデルが作成されていないのである。

参加途中で日本から、来月から始まるプロジェクトの予算獲得に成功したというメールが入った。直ちに研究計画書を作成せよということで、半日ほどそれにかかりきりになってしまった。その後会場で留学中のポスドクと会い、帰国後の本プロジェクトへの参加を要請するなど成果はあった。たまたま若手の神経科学者集団の夕食会に参加して、話を聞いた。小生は既に中堅に達しており、若手とはいえない立場にあることを実感して戦慄する思いであった。神経科学はその発祥からすでに、学際的な分野である。今までは医・薬学、理・工学、心理学など多彩な背景を持った研究者が神経科学者として独立して活動していた。しかし最近では、はじめから神経科学を専攻している人や、それを求めて入学する学生などが見られるようになっている。このような人材を、一体どの学部あるいは大学院で教育するのが適切なのか深く検討すべきであろう。

ニューロ・イメージングについてはすでに神経科学の標準的な手法になっており、方法論的なあらたな展開はあまりなかった。サルとヒトとの比較や、その他のモダリティーとの同時計測などが焦点であった。ポスターセッションでは、主に広い会場の真ん中から右半分に固まっていた。いつものことだが、どのポスターを見てもなかなか優劣がつけにくくて困る。Attractiveなポスターを作成しないと、埋没してしまう可能性が高い。今後はヒトを用いた社会的な認知・行為・判断などに関して、どのような新しいモデルが提唱できるかというところだろう。自分の発表したポスターに関連しては、イメージング・ジェネティックス研究の被験者数が多くなってきていた。今後は少なくとも、50例は必要であろうと思われる。

来年は2009年10月17-21日、シカゴ市で開催される。

DAY 1:

Dialogues between neuroscience and society:
Movement in Time and Space: M. MORRIS; Mark Morris Dance Group, Brooklyn, NY
これは毎年恒例の、社会的に有名でかつ神経科学とは一見無縁な人物を呼んでトークをさせるものだ。マーク・モリスは同名の舞踏集団の創設者であり、世界的に有名な舞踏家で振付師である。今回の神経科学と社会の対話は、彼とSFNの会長であるEve Marder、神経科学者のBevilの対話で始められ、次いで聴衆からの幾つかの質問に答えるという形をとった。対話の内容は音楽と舞踏がいかに密接に関わっているか、proprioceptionの舞踏における重要性、舞踏家が運動のシークエンスを学習する過程などであった。マークは明らかに“それ風”であるし、SFN会長が妙にはしゃいでいるのが面白かった。

Lecture:
Imaging Selective Vulnerability in the Newborn Brain
D. M. FERRIERO; Dept Neurol., Univ. of California San Francisco
乳幼児における神経障害が主に白質の障害によることを、MRIの結果などを用いて示した。中枢神経系における障害は、その受ける年齢によって結果が大きく異なることが知られている。神経障害は、脳の領域や細胞集団に特異的に生じる。subplate neuron やoligodendrocyte precursorが発達早期に重要である。細胞シグナリングや代謝経路の成熟が発達に影響を与えている。新生児におけるこのような変化については、MRSの計測値と神経発達の結果に相関性が認められる。拡散イメージでは、障害された白質経路を計測することができる。これらの情報を集めることによって、将来的には神経保護の方法を考案することも可能になるだろう。乳幼児期の主にMRIで認められる、白質病変に関する臨床的考察であった。

DAY2:
Symposium:
Functional Neuroimaging Evidence for a Brain Network Underlying Impaired Insight into Illness in Drug Addiction.
Chairs: Rita Z Goldstein, Brookhaven National Laboratory, NY, US, Steven J Grant, National Institute on Drug Abuse, Bethesda, US
洞察のなさが依存性格の中心である。このシンポジウムでは島と前頭葉がこの洞察のなさに関係していることや、前部帯状回がエラーに対する鈍さや複雑な行動モニタリングに関係していることが発表された。物質依存は北米では深刻な社会問題であり、多くのリハビリ施設が存在する。ハリウッドやショービジネスのセレブの中にはアルコールを含めた依存者も多く、しばしばこのような施設で離脱を行っていることも報道される。今までは報酬系と前頭葉の話が多かったが、ここでは島の関与が報告されていることが新しい。

A. D. Bud Craig「The neuroanatomical basis for human awareness of feelings from the body」では島が薬物渇望に関係していることを示した。手の冷却や痛みは島の後背側部を刺激することが知られている。一方で自覚的評価や覚醒度などは島前部の活動と関係している。島や前部帯状回にはvon Economoニューロンという特殊な細胞が存在している。島には側性があり幸福と悲しみでは左右の活動に差があった。島が依存の中心ということはないだろうが、身体感覚が集合する領域として、いわゆる“体が欲しがる”という感覚と関連しているのだろうか。

Antoine Bechara「The role of the insula in awareness to nicotine craving」では、前頭前野と島の活動が“気付き”に関連していることを示した。病体失認では島の障害が認められる。島に梗塞を起こした症例では、重度のニコチン依存症が治ったということも報告されている。

Hugh Garavan「Addiction and impaired monitoring of behavior」では、GoNoGo課題のfMRIの結果を示した。コカイン依存では島と前頭前野の活動が低下していた。コカイン中毒では、コカインの静脈注射で抑制反応が亢進した。欧州では2500人程度の14歳の児童を対象とした、fMRI実験、認知機能測定などを含めた大規模研究が計画中である。相変わらず欧米では、MRIの非侵襲性を生かした大規模研究が進んでいるようである。本邦では残念ながら、こういうプロジェクトは一向に進展しないようだが。

Minisymposium:
Adult Neurogenesis, Mental Health, and Mental Illness: Hope or Hype?
Chair: Amelia J Eisch, UT Southwestern Medical Center, Dallas, US
海馬におけるneurogenesis の制御は精神疾患の治療や予防に重要になることが示唆されている。ここではneurogenesisと精神保健、精神病の関連について発表された。中でも依存、うつ病、てんかん、統合失調症などとの関係が示された。Hypeとは俗語で誇大広告・詐欺という意味らしい。まだ一般臨床には大分距離があると感じた。

J. M. Encinas; Neuroscience, Cold Spring Harbor Laboratory, NY.「The Life of Neural Stem Cells in the Adult Hippocampus: Implications for Aging」では、neurogenesisが抗うつ薬、脳深部電気刺激、ランニングで起こることが示された。神経幹細胞の数は年齢とともに低下していた。ECTに抗うつ効果があることの、生物学的な裏づけになるかもしれない。

H. A. Cameron; Unit Neuroplasticity, NIMH/NIH, Bethesda,「Learning-induced activation of young versus mature neurons in the adult hippocampus」では、ラットが学習すると背側海馬におけるneurogenesisが亢進した。学習を多くするとさらに賦活が増えた。若いラットではむしろ腹側海馬で亢進した。

A. J. Eisch; Department of Psychiatry, UT Southwestern Medical Center, Dallas,「Addicted to neurogenesis: Do new hippocampal neurons regulate cocaine self-administration and reward?」では、海馬と側座核の間はグルタミン酸で側座核とVTAの間はドーパミンである。ストレスはグルタミン酸の活動を亢進させる。

L. A. Meltzer; Neuroscience Program, Stanford Univ, Stanford, 「The neurogenesis hypothesis of depression revisited: Distinct roles for newborn neurons in the neurophysiology of depression and its treatment」では、抗うつ薬はneurogenesisを亢進させ、ストレスは逆に低下させることを示した。軽度の慢性ストレスは歯状回の活動を低下させ、抗うつ薬は逆に上昇させる。歯状回の活動はうつ病では低下し、fluoxetine投与で上昇する。

DAY 3:

Special Lecture:
A New Perspective on the Role of Orbitofrontal Cortex in Decision-Making, Judgment, and Adaptive Behavior.
Geoffrey Schoenbaum, University of Maryland, School of Medicine
眼窩部前頭葉(OFC)の障害では、適応的で柔軟性のある行動ができなくなる。このような欠損は反応抑制の障害であり、また眼窩部前頭前野が柔軟性を持つ連合学習領域であることと関連している。しかし最近の研究結果は、これと異なった結果を示している。このシンポでは、眼窩部前頭前野が予測された結果の情報を知らせることで柔軟性のある反応を行うという仮説を提示した。ラット、サル、ヒトを問わず、OFCの障害ではreversal learning(RL)の結果が悪くなる。これは新たな関連性を記憶するという機能に関係しており、また扁桃体の働きもこれに関与する。扁桃体の損傷は返って、OFCの損傷によるRLの悪化を代償する方向に働くという。

Special Lecture:
Neural Mechanisms of Cortical Dysfunction in Addiction: Consequence or Cause of Compulsive Behavior.
Jane Rebecca Taylor, Yale University, School of Medicine
依存における強迫的な薬物使用の神経機構については、まだ良く分かっていない。辺縁系―線状体の可塑性の変化が、報酬系学習や記憶に影響を及ぼしている。ここでは薬物による前頭葉の神経適応が、辺縁系―線状体の機能を目的指向の柔軟性から習慣性で刺激指向性の行動へ変化させていることを示す。解剖学的に前頭葉は、腹側・背側の線状体と連絡がある。これらの領域は反応抑制(GoNoGo課題やreversal learning:RL課題)で活動が亢進するが、コカイン中毒ではこれらの抑制が低下している。また中毒患者のPETスキャンでは、PFCの糖代謝が低下している。サルで慢性コカイン投与を行うと、RL課題成績が低下する。構造MRIではコカイン中毒で線状体の体積が減少している。またコカイン摂取により、ドーパミンD2/3受容体が減少する。これらの結果はおおむね、臨床的データとよく相関するものである。ネズミのコカイン中毒もヒトのコカイン中毒も、そのビヘイビアーには類似性があることからこれらの研究には妥当性があると言える。

Minisymposium:
Functional Interactions among Multiple Brain Areas during Flexible Associative Learning.
Chair: Mark Laubach, Yale University, New Haven, US
ここでは柔軟性のある連合学習の神経基盤について示された。以下の1題しか聞くことはできなかったが、サルの生理学的データにも最近ではガンマ活動などのイメージ化された手法が用いられていることが興味深かった。

E. K. Miller; Brain and Cognitive Sciences, MIT, Cambridge, MA.「Comparison of learning-related changes in the prefrontal cortex and caudate nucleus」では学習により生じる神経活動の変化をスパイク活動とlocal field potentials(LFP)によって研究した。課題は主に短期記憶に関するもので、サルの神経生理学的実験により前頭前野ニューロンのガンマ帯域活動を調べた。刺激呈示などによりガンマ帯域活動が有意に亢進していることが示され、また刺激の種類によってはphaseのシフトも起こっていた。

Minisymposium:
Mouse Models of Autism and Related Disorders: Molecules, Mechanisms, and Treatment.
Chairs: Craig M Powell, Lisa M Monteggia, UT Southwestsern Med Ctr, Dallas, US
ここでは自閉症関連の分子遺伝的研究の最近の進展について、4つの疾患とその候補遺伝子を上げて発表された。その4つとはFragile X (fmr1), Autism (Neuroligin-3), Angelman Syndrome (Ube3a) Rett Syndrome (MeCP2)である。本質的に不可逆的と思われていたこれらの疾患にも、これらの仮説では新たな治療方法への可能性を示していた。以下の1題しか聞けなかったが、私はこのような研究でマウスモデルが用いられていることの妥当性がいまひとつ信頼できないのである。例えばがん研究では動物でもヒトでも同じようながん細胞ができると思うし、それらの異同性について議論はないかと思う。しかしマウスの社会性とヒトの社会性がどのような点で同じなのかまったく保証がないのである。それを誰がどのような形で担保するのであろうか。M. Powell; Neurology and Psychiatry, UT Southwestern Med Ctr, Dallas,「Neuroligin Mutant Mouse Models of Autism: Molecules to Mechanisms」ではNeuroligin Mutantが自閉症やアスペルガー症候群で認められることを示した。Neuroligin3のノックインマウスでは社会的行動が低下し、逆に記憶機能は亢進していた。

DAY 4:

Special Lecture:
Recovery of Consciousness after Severe Brain Injury.
Nicholas D. Schiff, Weill Cornell Medical College
ここでは重篤な脳外傷後の意識回復に焦点を当て、極めて反応性の乏しい患者の驚くべき回復可能性に関して述べられた。受傷後長期の認知機能の回復を示した最近の研究は、意識回復は神経回路レベルでの機能的変化という観点で議論されている。ここでは臨床的および科学的背景と、視床の電気刺激が意識障害の改善に役立った例を示した。 症例呈示では、受傷後9年間にわたり意識混濁が続いていた患者が示された。最近ではこのような症例は、minimally conscious state(MCS)と呼ばれている。このような例でもfMRIを行うと、言語理解に関する脳賦活が認められる。さらに神経病理学的には、視床の神経変性が認められる。解剖学的には視床はcoreとmatrixに分類され、前者は皮質の中間層に後者は表層にそれぞれ投射している。深部電気刺激を行うと、運動機能や覚醒度が改善する。薬物ではzolpidem(GABA系を刺激し、睡眠薬として用いられている)が前頭葉の代謝を亢進させるが、その作用機序はまだ分かっていない。臨床的な観点からfMRIやその他の神経生理学的手法を通じて、意識障害の分類や治療法に関して報告した。神経内科・脳外科的には大変有意義なレクチャーであったと思う。

Special Lecture:
The Mirror Neuron System in Monkeys and Humans.
Giacomo Rizzolatti, University of Parma
このレクチャーは3部に分かれていた。最初はサルのミラーニューロンについて、それが与えられた運動行為(例、つかむ)をコードしており、組織化された脳構造が観察者になぜ運動行為が行われるか(例、食べるためにつかむ)を推察させることを示した。次いでヒトのミラーニューロンは、運動前野と頭頂葉では異なった構成になっていることを示した。最後にこのミラーニューロンシステムと自閉症の関連性について述べられた。 途中から参加しイタリア訛りの英語でおまけに早口とあって、あまり良く理解できない部分もあった。最終的にはやはり社会性や自閉症との関連性が重要ということで終わった。

History of Neuroscience Lecture:
Reflecting on the Field of Brain and Memory.
Brenda A Milner, McGill University
ここでは1950年代初頭において、数名の両側性内側側頭葉損傷による健忘症患者が脳内の記憶回路の存在を証明したこと、さらに最近の機能画像の進歩により記憶のメカニズムがより詳細に解明できつつあることを示した。ミルナー(調べてみると当年90歳らしい!)は元来は数学に興味を持っていたようだが、ケンブリッジ大学で心理学を修めてカナダのマギル大学へ移った。当時はペンフィールドがてんかん外科時の脳刺激研究や、ヘブの神経回路理論研究などが活発に行われていた。そこで彼女が見たのは、2例の左半球の側頭葉切除患者が記憶障害を示した症例であった。次いで有名な両側性切除を行われたH.M.症例に出あい、記憶と側頭葉の関係を明確にした。この症例では記憶障害は顕著であるが、鏡像描写などの学習は保たれていた。左右差については、右海馬切除では物体の空間位置記憶などに障害が出ることを示した。年齢をまったく感じさせない早口で、神経心理学の歴史的な研究結果について述べた。このような臨床的な裏打ちを持つ、脳科学的モデルを追及するという類の研究があまり日本で行われなかったのはどうしてだろうか?

DAY 5:

Minisymposium:
Fine-Scale Spatial Organization of Face and Object Selectivity in the Temporal Lobe: Do fMRI, Optical Imaging, and Electrophysiology Agree?
Chair: Hans P Op De Beeck , University of Leuven, Leuven, Belgium

脳における顔認知領域と物体認知領域の空間的配置については、まだ良く分かっていない。ここではヒトとそれ以外の霊長類を対象とした、イメージングや生理学的手法で顔と物体認知について研究した。単一ニューロン活動、光イメージング、fMRIの結果が側頭葉活動にどのように関連しているか、そして顔と物体認知領域の詳細な空間的配置について理解を深めた。総体的に良くできたシンポジウムであったと思う。顔認知のビッグ・プロジェクトが当たった小生としては、ぜひ聞きたかったセッションであった。しかし内容的には生理学的な研究が多く、いまひとつ“顔認知とは?”という基本的命題の解決には至らなかった。

K. Grill-Spector; Dept. of Psychology & Neurosciences Institute, Stanford University, Stanford, 「High resolution fMRI of the human ventral stream」では、ヒトにおける高解像度のfMRI実験の結果が示された。ボクセルサイズは1.5 x 1.5 x 3mmである。顔認知に関わるFFAの分布は、一般的な解像度のfMRIと比較してよりpatchyに分布していた。風景に関するPPAやFFAなどの再現性は、同じ被験者を別の日にスキャンしても同様の結果が得られた。またブロック型実験でもイベント型実験でも類似した結果が得られた。FFAはさらに前部と後部に分かれていた。

J. Goense; Physiology of Cognitive Processes, Max-Planck Institute for Biological Cybernetics, Tuebingen, GERMANY.「High-resolution fMRI in monkey temporal lobe」では、サルの高解像度fMRIを7テスラで行った結果を示した。解像度は0.5-0.75mmであった。Single shotよりもmulti-shotが、gradient echoよりもspin echoがいずれも良い結果を示していた。SEでは脳表の静脈効果が逓減していた。顔認知というよりも、7テスラを使った装置の性能実験といった感じである。

H. P. Op de Beeck; Laboratory of Experimental Psychology, University of Leuven, Leuven, BELGIUM.「Which object property determines the spatial organization in the temporal lobe?」では、ヒトのfMRIでカテゴリー、サブカテゴリーなどに関連する脳領域を研究した。例えば顔認知で言えば、さらに成人の顔と赤ん坊の顔に分かれている。類似した形に反応する領域は、同じような場所にかたまっている。顔と家をモーフィングしてfMRIを行うと、顔は外側に家は内側に分布しその移行部は連続的ではない。画像の平滑化を行うと、広域分布型のパターンを示す賦活に有利に働く。

A. Papanastassiou; McGovern Inst/Brain & Cognit Sci, MIT, Cambridge,「A systematic exploration of the relationship of fMRI-signals and neuronal activity in the primate temporal lobe」では、サルのIT野に関する研究が示された。ここではX線解析で電極の詳細な位置決めを行い、さらにその結果とfMRIの結果を重ね合わせた。Multi Unit ActivityとfMRI信号の相関はr=0.27-0.48であった。画像の平滑化の程度は、FWHM=5mm程度が良かった。あまり無理をしてMUAとfMRI信号の相関を見る必要性はないのではないかと思った。

D. Y. Tsao; Institute for Brain Research, University of Bremen, GERMANY.「The system for processing faces in the macaque brain」では、サルの顔に反応する領域(patch)を後部、中部、前部それぞれ2ヶ所づつ同定した。中部の1つはSTSに、前部はITに該当する。それぞれのpatchの直径は3-7mmであった。前部(後部)patchは顔の方向に特異性があったが、前部(前部)patchでは方向による特異性はなかった。Patchの中では刺激反応性に類似性が高く、別のpatchはまた別の機能を持っていた。これらのpatchを電気刺激すると、あるpatchの刺激で別のpatchが興奮した。このことは両者に神経的な結合性があることを示している。また前頭葉眼窩部にも、この側頭葉patchの刺激で興奮するpatchが見つかった。大変すばらしい、目が覚めるような研究であった。

M. Tanifuji; Lab Integrative Neural Systems, Riken BSI, Saitama.「Object representation at a columnar level in macaque IT cortex: Evidence from combination studies of optical imaging and extracellular recording」では、サルのオプティカルイメージングの結果が示された。ITのコラムではサルの顔特異性のものとサルの体特性のものがあった。

Minisymposium:
The Evolution of Numerical Cognition: From Number Neurons to Linguistic Quantifiers.
Chairs: Edward M. Hubbard, INSERM, France, Vanessa Troiani, University of Pennsylvania Medical Center, Philadelphia, US
記号的数体系は非記号的量を比較するため、進化的に保持されてきた機能に基づいている。ここでは単一神経記録研究や、種間の行動比較などを用いて、頭頂葉や前頭葉、海馬におけるこれらの機能を研究した。サルでもヒトと同じような計算や数の概念が存在することを、明瞭に示していた。しかし計算などの一部には、本当にヒトのような認知処理を行っているのかどうかと思われる行動も見られた。

I. Diester; Cognitive Neurology, Hertie Institute for Clinical Brain Research, Tuebingen, GERMANY.「Semantic associations between signs and numerical categories in the prefrontal cortex」では、前頭葉における数の概念について示された。

J. F. Cantlon; Center for Cognitive Neuroscience, Duke Univ, Durham,「Basic math in monkeys and college students」では、サルとヒトおける簡単な計算能力の比較を示した。

Society for Neuroscience, 37th annual meeting in San Diego, Nov 3-7, 2007

この学会は神経科学のほとんどすべての領域の研究が、5日間の期間中にレクチャー、シンポジウム、口演、ポスターなどの形式で発表される。参加者は3万人を越えると予想されており、世界的にも規模の大きな学会である。(文章の一部は学会抄録からの引用です)

Dialogues between Neuroscience and Society; Jeff Hawkins (Founder of Palm Computer); Why Can’t a Computer be More like a Brain?
毎年学会の冒頭に行われる神経科学と社会との対話シリーズでは、コンピューター業界の始者の一人であるJeff Hawkinsが登場した。彼はパームコンピューターの創業者で、最近ではコンピューターと神経科学を融合させる試みを行っている。そのようなアイデアに基づいた著作を発表し、神経科学研究所を立ち上げるなどしている。デジタルコンピュータは、20世紀において信じられないような発展を遂げた。その計算能力はデジタル時代の創生者の最も大胆な予想をも超え、スピードやサイズ、コストが改善された。しかしコンピューターがヒトの能力を再現するであろうという、ごく初期の予想はまだ達せられていない。

この講義ではコンピューターの過去と未来について、特に生物学的知見に触発された原理が多くの発展を後押ししているということについて述べる。神経系の中でも視覚についてのモデルが提示された。より下位の視覚野から上位の視覚野へ情報が送られるという、階層性が中でも重要である。既に学習され獲得されている情報へ、どのようにアクセスするかも重要である。そのような階層性と情報へのアクセスにより、例えば視覚的に提示された猫と犬などの弁別が可能になっていく。全体としてモデルの提示が主で具体的なデータの提示がなかったことは、講演者の性質からして仕方のないことであろう。

Minisymposium; T. L. BALE; Animal Biol., Univ. of Pennsylvania, Philadelphia, PA; Stress and Disease: Is Being Female a Predisposing Factor?
このミニシンポジウムではストレスと疾患の関係を薬物依存と感情障害に関して、性別による差と女性であることの脆弱性について検討した。性差とこのような疾患の生物学的原因について、また動物の脆弱性とストレス感受性のモデルについて最新の基礎的および臨床的研究に焦点を当てて示した。疾患モデルに関する遺伝的、出生前、内分泌的な研究が発表された。ストレス制御が困難な女性では、これらの疾患にかかる可能性が高い。CRFやBDNFの代謝が乱れている動物では、行動上や対処的行動における性差が顕著に見られる。薬物依存への脆弱性もストレス感受性と関係しており、依存の進行と再発における性差に影響を与えている。時間の都合で途中までしか聴講できなかったが、動物レベルでも大きな性差があることからヒトにおける実験では性別を考慮する必要性が高いと認識した。

Lecture; K. SVOBODA; HHMI, Janelia Farm Rese Ctr., Ashburn, VA; Imaging Synapses in their Habitat
最近になり発達してきた、ニューロン活動を生きたままの脳で視覚化する手法について示された。顕微鏡の視野には1つまたは複数の樹状突起が写り、その一部のシナプスが急に光ったりすることで活動が亢進していることが分かる。シナプスの活動により、棘の大きさが変化したりする様子が経時的に示された。ニューロンは数多くのシナプスにより、高度に発達したネットワークを形成している。典型的な興奮性シナプスは軸策とシナプス前終末、シナプス後の樹状突起や棘などから成っている。シナプスの大きさは約1μであるが、脳の中で最もダイナミックなものである。シナプス可塑性に関わる時間は、ミリ秒単位から年単位のものまである。早いほうでは神経伝達物質の放出は数ミリ秒であるし、遅いほうでは長期記憶に関する変化は年余にわたって維持される。

このメカニズムを解明するには、個々のシナプスを理想的には生きたままの脳で検討することが必要である。最近開発された蛍光顕微鏡法では、2個の光子を励起したレーザースキャン顕微鏡を使い、正常の脳組織の深い領域のシナプスを区別することができる。蛍光標識を変えることで、個々のシナプスの機能と構造を数ミリ秒から年単位で何回も計測することができる。この手法でシナプスに関する長年の疑問が解けようとしている。例えば同じ樹状突起の隣り合ったシナプスは、どのくらい連動して、または独立しているのか。これに関しては、隣り合っていてもその機能的活動はかなり独立していることが分かった。新奇な感覚刺激に対して、どのシナプスが可塑性を持つのか。またその可塑性のメカニズムは何か。どのようにしてシナプスの機能は年単位で保持されるのか。などの点がこの手法により解明されつつある。

Lecture;
L.H. TSAI; Picower Inst. for Learning and Memory, Massachusetts Insitute of Technology/HHMI, Cambridge, MA;
Mechanisms Underlying Prevention of Cognitive Decline and Restoration of Memory in Age-Dependent Neurodegenerative Disorders
アルツハイマー型認知症(AD)の中心的なモデルであるアミロイド仮説については、既にこの学会でも何度も取り上げられている。この講義ではアミロイド仮説に準拠しながら、今まではあまり取り上げられなかったp25という物質が神経障害の原因と1つであることを示した。後半では、p25を標的とした手法がADの治療に有効である可能性が示された。記憶の学習・強化・想起のメカニズムは神経生物学のなかでも興味深い分野である。脳がこれらの課題をどのように処理しているかについては、多くの研究がなされてきた。逆にこれらの過程が制御できない場合は、ADや統合失調症になるかもしれない。ADは年齢に依存した神経編変性疾患であり、認知機能が次第におかされて認知症に至る。アミロイドの過剰な生成が家族性ADには関係しているが、孤発性ADの場合はどのような危険因子があるかまだ十分に分かってはいない。この講義ではシナプス障害や学習障害、神経細胞死に至る細胞メカニズムについて述べられた。例えばAβペプタイドは、海馬のLTPに障害を与える。さらにタウや病的なCdk5を賦活するp25などは過剰に産生されると学習障害や神経死にいたることが分かった。

後半は主に治療的戦略について述べられた。Aβの沈着を防ぐには、ワクチン接種が有効である。またタウの減少によっても、記憶障害が減少する。環境の豊富化により学習能力が向上する。環境豊富化はAβの沈着を防ぐ可能性があり、アミロイドマウスの学習障害をも防ぐ。環境の豊富化は、ヒストンタンパクのアセチル化を促進することで効果を示すと考えられる。薬物で同様の効果を持つものにADの治療的効果があるかもしれない。P25マウスが神経変性の動物モデルになる可能性があり、これでは学習障害と長期記憶へのアクセス障害を分けて検討することができる。

Symposium; K. A. MICZEK; Psychology, Pharmacology, Neurosci., Tufts Univ., Medford, MA, Neurobiology of Escalated Aggression and Violence
攻撃性にかかわるシンポジウムが開かれるのは、本学会でも初めてのことだという。それだけ攻撃性に関する脳研究には、難しい部分があるのだろう。動物におけるそれとヒトにおけるそれがどの程度同じなのか、または異なるのかなど未確定の要素が大きい。記憶障害のように動物実験とヒトのデータに高い類似性がある場合はともかく、このような攻撃性に関わる研究には多くの困難がある。このシンポジウムでは犯罪者における精神病理学的な暴力からハエにおける攻撃性までが、最新の行動的、神経生物学的、遺伝的手法によって研究されていた。FruM遺伝子、octopamine(ヒトにおけるノルアドレナリンに近いらしい)ニューロン遺伝子、エストロゲン受容体遺伝子、セロトニンとGABAの遺伝子などが攻撃性の性差に関係していることが示された。

最初にE. Kravitzは雌雄のハエがそれぞれどのように戦うか、そして雄ハエがどのように階層的な相互関係を構築するかについて述べた。ビデオでは雄のハエが、もう1匹のハエを攻撃する様子が示された。雌でも攻撃性は見られるが、その様式がかなり異なっていた。FruM遺伝子(octopamineニューロンと共存しているという)が最終的に攻撃性を決定するということである。Octopamineニューロンのハエ脳内での分布が、3D表示で示された。E. Rissmanはステロイドホルモンのレベルが異なることが原因だとしている。ほとんどの哺乳類では攻撃性は性的二型性と関係がある。エストロゲン受容体αと性染色体にある遺伝子が攻撃性を決定するらしい。

de Boer はネズミの攻撃性モデルを作成し、セロトニンニューロンとGタンパク共役性受容体が攻撃性と関係することを示した。前頭前野と縫線核の活動の制御が、適応的な攻撃性から強度の攻撃性へ変化させる原因だとした。Raineは以前から行っている反社会的行動、犯罪、暴力の神経画像研究について示した。前頭葉の背側と腹側、扁桃体、海馬、角回、前部帯状回などが機能的・構造的に障害されているとした。反社会的行動は道徳的判断決定の神経回路の障害だというモデルを提唱している。最後に神経倫理的問題についても言及した。

ハエにも相手を攻撃する行動が見られるのには驚いたが、さらに雌雄でその様態が大きく違うことにはもっと驚いた。最後の犯罪者の神経画像研究はRaineの他にはあまり研究者がいないので、その結果の信頼性はよく分からない点がある。また何でも前頭前野の活動に結びつけるのはどうかとも思われる。神経倫理学に関する検討はまだこれからだと思うが、このような研究が実際に裁判の場に持ち込まれることも想定する必要があるだろう。

Lecture; L. G. UNGERLEIDER; Natl. Inst. of Mental Hlth., Bethesda, MD; Neural Mechanisms for Perceptual Decision Making
NIHのUngerleiderは元来はMishkinらと共に、サルの実験心理学的研究を行っていた。しかしPETの脳賦活検査が普及し始めた初期から、その手法を応用してサルによる実験結果をヒトで検証している。大分前のSFNでも彼女の講演を聞いたことを思い出した。当時はPETとfMRIの黄金時代であり、その内容には感銘を受けた。それから5年ほど経って今回の発表を聞くと、やはり隔世の感はぬぐえない。当時は他の基礎研究の結果では、画像が提示されることは極めて少なかった。しかし最近では多くの基礎研究でも、鮮明なカラー画像やその経時的変化を視覚的に訴える形で発表している。従って神経画像を用いた研究結果の独壇場が少なくなっていると言える。

この発表では意思決定についてのサルとヒトの実験結果を比較している。意思決定とは、いくつかの選択肢から好ましい選択や行動の道筋を選ぶ過程と定義できる。ベイズ推論に基づいた意思決定のモデルでは、典型的には3つの変数がある。それは①他の選択肢よりもその選択を好む感覚的な証拠の蓄積、②事前の知識に基づいて、2つの選択肢に生じるそれぞれの蓋然性、③ある1つの選択肢を選んだ時に期待できる報酬価値である。サルのシングルセル実験の結果に基づいて幾つかのfMRI実験を行い、ヒトの脳で意思決定のメカニズムを検証した。

サルの実験では、刺激のカテゴリーに選択的な下位の感覚ニューロン群の出力の比較が、より上位の前頭前野が判断を下す場合のメカニズムではないかと考えられた。fMRIを用いて、ヒトが同様のメカニズムで複雑な刺激(顔と家)に対する判断をしているかどうかを検証した。左上前頭回が鮮明な刺激で不鮮明な刺激よりも活動が高く、かつ紡錘状回の顔と家の信号差と相関し、さらに課題の正答率とも相関した 。このように複雑な視覚刺激でも、選択的に反応するニューロン群の出力の比較がヒトの脳において意思決定に関与していることが示された。さらに前頭前野の意思決定への関与は、刺激や反応の種類とは無関係であった。このことは感覚刺激と意思決定と行動との関係が、柔軟性があるものであることを示す。事象の蓋然性の変化(50対50、80対20など)が感覚野の活動(これは刺激に対する感受性を示す)と前頭前野の活動(これは決定条件を示す)の両方に変化を与えることも示した。

Symposium; J. E. LISMAN; Biol. Dept., Brandeis Univ., Waltham, MA; Integrating the Major Theories of Schizophrenia within a Common Physiological Framework
統合失調症の原因には多くの仮説がある、例えばドーパミン仮説、GABA仮説、NMDA仮説、ニコチン受容体仮説などである。このシンポジウムではそれぞれの仮説の代表者が関連する証拠をレビューし、それが現在共通する生理学的枠組みとして統合できることを示した。最初にJoseph T. Coyleは「The NMDA Hypofunction Hypothesis」と題してNMDA低活性仮説を示した。これは健常者において、NMDA拮抗薬が統合失調症様の症状を起こすことから考えられた。皮質のNMDA活動が低下するとグルタミン酸が低下し、さらに中脳被蓋野のドーパミン活性が上昇して精神病症状を呈する。最近の研究では、NMDARを介した中間ニューロンの興奮が関係しているとしている。この結果生じる中間ニューロンの活動低下が、錐体細胞(グルタミン酸作動性)の過剰興奮を起こしている。D‐cycloserinによりNMDAが上昇すると、陰性症状が改善するとした。

Francine M. Benesは「Changes in the GABAergic System in Schizophrenia」と題して、中間ニューロンの統合失調症の病態生理における重要性について発表した。死後脳では、GABAやGADmRNAに関わる多くのタンパクが低下している。死後脳では、前部帯状回の第Ⅱ層と海馬のCA2においてGABAが低下している。海馬の障害は扁桃体への前向的興奮回路を賦活する。思春期の発症については、扁桃体から前部帯状回への神経投射がこの時期まで発達することと関係があるとした。GAD67の低下が統合失調症と双極性障害で認められ、動物モデルでも皮質活動抑制の低下が示されている。

Arvid E Carlssonは「Dopamine: A Player Hard to Dismiss」と題して、ドーパミン仮説についてレビューした。さらにグルタミン酸ニューロンの脱抑制がどのようにドーパミンの放出を促すかについて話した。ドーパミン放出は陽性症状に関して重要であるが、それはドーパミン拮抗薬の治療的効果から統合失調症に最も関連していると考えられている。さすがのノーベル賞学者も、高齢のためか長旅のためか声も擦れていた。統合失調症におけるドーパミン仮説が古くなったことが実感された。

John E. Lismanは「Interim Summary: Integrating the NMDA, GABA and Dopamine Hypotheses」として、これらの異なった発見が統合された枠組みとして理解できることを示した。すなわちNMDA受容体の機能低下と中間ニューロンのGABA合成酵素であるGAD67の低下が、海馬の活性を上昇させさらに中脳被蓋野のドーパミン高活性を生じるというモデルである。中間ニューロンの活動の変化は、脳波のガンマ帯域活動の変化を誘発している。

Lorna W. Role は「Nicotinic Receptors and Cortico‐Limbic Circuits Regulated by Type III‐Neuregulin 1/ErB Signaling」と題して、neuregulin遺伝子について発表した。統合失調症患者では喫煙率が高い(85%)ことが知られている。これは喫煙により自動的にニコチン受容体を刺激し、感覚遮断作用を高めるという治療効果がある。海馬におけるType III‐Neuregulinとα7ニコチン受容体が関係している。これらのKOマウスでは短期記憶が障害され、プレパルス抑制効果(PPI)も低下し、さらにガンマ帯域活動が低下する。またこれらの機能低下はニコチン投与により改善する。実験的にはこの遺伝子の変異がNMDAとニコチン受容体の機能を低下させることで病態生理学的変化を起こすという。

Robert Freedmanは「How Interneurons are Impaired by Deficits in Nicotine Receptors in Schizophrenia」と題して、ニコチン受容体と統合失調症の関係を調べている。患者では音刺激に対するP50反応の抑制が低下していることが示された。ニコチン作動薬(anabaserine?)はこの低下を改善する方向で働くという。最近の生理学的研究では、ニコチンは疾患による中間ニューロンの機能低下を改善する作用がある。

Claudia Raccaは「How NMDA Hypofunction of Interneurons Produces Deficits in Gamma Oscillations」と題して、NMDA拮抗薬で生じた中間ニューロンの活動の機能的効果について研究している。NMDA拮抗薬は、中間ニューロンの活動によるとされている脳波ガンマ帯域活動を低下させる。遺伝的モデルであるLPA(?)受容体遺伝子のKOマウスと、急性モデルであるketamine投与では同じようなガンマ帯域活動の低下が認められる。このガンマ帯域活動の低下は第Ⅱ層に特異的に生じており、第Ⅳ-Ⅴ層では認められない。第Ⅱ層の活動が星状細胞により脱抑制されているのではないかと考えられている。Ketamineのガンマ活動に与える影響には、領域特異性がある。聴覚野と感覚野では上昇する方向へ、嗅内野と前頭葉内側部では低下する方向で働くという。ガンマ活動の低下とPV+細胞の数には相関が認められる。ガンマ帯域活動が低下は、患者で見られる認知機能障害を説明する。

ドーパミン仮説がその有効性を失って大分経つが、NMDA-GABA仮説はそれに変わって最近有力になってきている。この仮説は単に神経伝達物質だけでものを言うのではなく、最新の分子遺伝学や神経生理学の所見、さらに脳波やPPIなどの結果も含まれている。この点において、従来の仮説よりも信憑性がたかい印象がある。しかし例えばガンマ帯域活動は、動物では海馬などから直接計測できるが、ヒトにおいては頭皮上の電位変化である。この測定条件の違いが、結果にどのような影響を与えているかなどまだ検証すべき点は多い。それも含めてこのシンポジウムは、古くからの仮説も含めて包括的に理解ができたので極めて有用であった。

Lecture; M. F. BEAR; HHMI/Picower Inst. for Learning & Memory, MIT, Cambridge, MA, Modification of Cerebral Cortex by Experience
Bearは神経科学の有名な教科書の著者の1人であり、小生も学部学生の講義に用いていたことがある。この講演はノーベル賞で有名なHubelとWieselの視覚野における研究の、その後の発展を示したものである。正常な脳機能は、出生後においてもニューロン間の結合の再構成を要する。シナプスは感覚刺激により、形成・強化されたり逆に失われたりする。視覚野の40年にわたる研究から、このシナプス間の可塑性について分かってきた。これらの研究で得られた知識は発達障害の病態生理における知見から、知覚的学習を増強したり感覚剥奪からの回復までに至る広い領域に影響を与える。

Lecture; M. YANAGISAWA; Univ. of Texas Southwestern Med. Ctr./HHMI, Dallas, TX; From Orphan GPCRs to Behaviors
日本の誇る天才・柳沢教授のご講演である。最近の研究にもかかわらず、おおよそ100近い数のGタンパク結合型受容体(G protein-coupled receptors: GPCRs) が、リガンドが同定されていないいわゆる哺乳類の遺伝子の”orphans” として残っている。新規のリガンドを同定することは、しばしば行動神経科学において研究の新しい道を切り開くことになる。この講義ではそのような試みの例について、幾つかの神経ペプチドと受容体(OrexinとGPR7)に関して話した。前半はOrexinの発見とその遺伝子の同定、さらにKOマウスでの行動実験、ナルコレプシーとの関連とその治療的応用などである。さらにOrexinは睡眠とともに、食欲や肥満など生態のホメオスタシスに関係している可能性が示された。Orexinを用いた治療薬では昼間の覚醒度を向上させ、高カロリー食をいくらとっても太らないという夢のような生活が可能になるとした。後半は扁桃体に特異的に発現しているGPR7について、その研究の途中経過を発表した。この遺伝子をKOしたマウスでは、通常は認められる天敵などへの警戒的な反応が認められなくなる。昨年のSFNでは講演をキャンセルしたが、今年は40分ほどの発表を行った。最も広い会場で聴衆の入りは6割程度であったが、反応は良好であったと思われる。

Symposium;
M. MESULAM; Cognitive Neurol. and Alzheimer’s Dis. Ctr., Northwestern Univ., Chicago, IL;
Primary Progressive Aphasia: Language Impairment, Network Reorganization, and Genetic Linkages
このシンポジウムは全体的に神経言語学、機能的・構造的神経画像、神経病理学、遺伝学などにおける研究結果に基づいている。原発性進行性失語(Primary progressive aphasia; PPA)は神経変性症候群であり、左半球の言語ネットワークを冒すことで単語生成や理解の緩徐な喪失をおこす。この疾患を研究することで、言語の機能的体系や選択的な解剖学的脆弱性の分子的機構を探ることができる。最近のPPAにおける言語的特徴に関する発見には、解剖学的特徴、神経ネットワークの可塑性、そして家族性PPAの遺伝研究などが含まれる。失語という概念は、後天的な言語障害に対して用いられる。伝統的な言語学と神経学の研究は、脳卒中による失語が基本である。

最近ではPPAと呼ばれる神経変性失語が認識されてきている。原発性という言葉の意味は言語障害が最も初期から顕著に現れることで、記憶障害が最初に出現する典型的なアルツハイマー型認知症と区別される。PPAの失語は流暢性または非流暢性で、単語理解の障害もあったりなかったりする。進行性非流暢性失語(progressive nonfluent aphasia; PNFA)や意味性認知症(semantic dementia; SD)という診断がPPAのサブタイプに使われてきた。PPAの神経画像は局所的で、通常は左半球の神経喪失を示す。その基盤となる神経病理的変化は、おおよそ前頭側頭型葉性変性症に含まれる。PPAにおける緩徐な神経変性は、単語生成や文法、意味などを研究する上で貴重な機会となる。疾患の過程で言語ネットワークは機能的に再構成される。選択的な言語機能の脆弱性の分子機構に関する研究では、progranulin遺伝子の変異により生じたPPA家系の発見がある。また言語に関連した学習障害が、患者およびその第1親等において増加しているという発見も重要である。

Mesulamの発見から25年経過して、PPAの臨床病理学的特徴が明らかになってきている。彼は最初にPPAの一般的な臨床所見について、患者のビデオを用いて示した。疾患概念と下位分類について説明し、アルツハイマー病やその他の認知症などとの鑑別点を述べた。Gorno-Tempiniは主に構造的MRIとVBMを用いて、PPAのサブタイプとその障害される脳領域について話した。この研究では、領域別に3つの下位分類に分けられることが示された。1つはブロカ野が障害される群、ついで側頭葉前端部が障害される群(意味的認知症に近い)、さらに頭頂側頭葉領域が障害される群である。これらの臨床的特徴と、一部は神経病理学的所見が示された。Argye Hillis はPPAにおける、カテゴリー特異的単語生成障害の言語学的特徴について話した。Rik VandenbergheはPPAにおける言語ネットワークの再構成と可塑性について話した。彼は主にfMRIを用いて、脳賦活とPPAの臨床症状について述べた。神経心理学的内容と学会最終日の午後という条件で、あまり聴衆の入りはよくなかった。

全体の印象としては、基礎から臨床までの広範囲に及ぶシンポジウムが開催されていた。中には最初から最後まで基礎実験でとても理解が及ばないものもあり、また一方ですべてが臨床研究であるようなものも見受けられた。SFNの参加者は当然のこと基礎研究者が多いので、後者のようなシンポジウムには比較的聴講者が少ない。しかし多くのシンポジウムではin vivo実験から、動物実験、それもげっ歯類から霊長類までをカバーし、最後はヒトを用いた研究で(この場合はやはり神経画像研究が多く引用される)閉じるというパターンが多かった。このようにヒトにおける神経科学の手法としては、PETやfMRIが独壇場である。しかしそれだけでは、特にこの数年はレベルの高い研究がしにくくなっていることも事実である。ヒトを用いた非侵襲的脳機能計測を複数用いることで、このような問題点を解決できるかどうか考えていく必要がある。

来年は2008年11月15-19日まで、ワシントンで開催される。 (文章の一部は学会抄録からの引用です)

Society for Neuroscience, 36th annual meeting in Atlanta, Oct 14-19, 2006

 Lecture
Rett Syndrome and MeCP2: Gateway to Postnatal Neuropsychiatric disorders. H. Y. ZOGHBI; Howard Hughes Medical Institute, Baylor College of Medicine, Houston, TX.
Rett症候群は主に女児に現れる神経発達障害で、発症前に獲得された技能の喪失と言語や新たな運動技能の獲得の困難が特徴である。患者は出生初期は正常だが、16-18ヶ月頃から運動障害などが始まり、歩行障害、失語、社会的技能低下、認知機能障害、けいれん、振戦、常同的手指運動、呼吸障害などに進行する。Rett症候群は、Methly-CpG-Binding Protein 2 をコードするMECP2遺伝子の変異により生じる。この遺伝子変異はX染色体にあり、自閉症や軽度の精神遅滞、若年発症の統合失調症などでも見つかっている。MeCP2の上昇は神経障害、精神遅滞、運動障害、けいれん、死産などを生じる。MeCP2濃度は成熟したニューロンには豊富であり、この物質が出生後の神経発達期におけるシナプス可塑性に関与している可能性を示している。この変異はRett症候群では全脳に、健常者でも脳のごく一部に変化を生じさせているのだろう。男児の場合は出生以前に死亡している可能性が高いが、47XXY では生存して発症する。この物質が転写抑制因子でRNA splicingを調節することを考えると、神経機能の何らかの調節をしていると考えられる。MECP2ノックアウトマウスでも、患者に類似した症状を呈する。生後4-5ヶ月は正常で、その後に活動低下や振戦生じる。ヒトの精神遅滞、自閉症、小児期発症の統合失調症、ADHDのモデルと候補遺伝子として有望である。MECP2の過剰発現でも自閉症傾向など同様の神経症状を呈することが重要である。また欠損マウスでは拘束ストレスに対する過剰なコルチゾールやCRHの上昇なども見られる。脳の各領域においてMECP2の発現を調節したマウスを用いて、症状と脳領域の対応を検討中である。自閉症の、またもしかしたら小児期発症の統合失調症の原因遺伝子として考えられているのだろう。

DAY2

Symposium
The Dynamic Nature of Memory. Paul W Frankland, The Hospital for Sick Children, Toronto, ON, Canada, Rui M Costa, NIAAA/NIH, Bethesda, MD
記憶が再賦活されるときに何が起こっているかを検証する。従来は記憶が符号化され、貯蔵される時が主に研究された。そこでは受容体やイオンチャンネルやセカンドメッセンジャーが最初の数秒から数分間、数時間の間にどう働くかについて研究された。これらの機構がシナプスの可塑性に重要で、記憶が脳に固定する基礎となった。近年では記憶痕跡がどのように再賦活されるかが可塑性と関係すると考えられている。記憶の再賦活は顕在的に行われる想起時と潜在的に行われる睡眠時の両方で起こる。それぞれが記憶痕跡の変更を生じ、繰り返す賦活が記憶をより確かにすることもある。このような再賦活依存性処理について検討した。記憶が常に脳の中でアップデートされ、また時には歪められている可能性を示した点でユニークであった。また睡眠と記憶の関係がほぼ定説となりつつあると感じた。ただ動物実験では記憶といっても、嫌悪条件付けがほとんどであり通常のエピソード記憶とはややことなる点が気になった。

Neuronal Competition during Memory Formation: The Role of CREB–S. A. JOSSELYN; Integrative Biology, The Hospital for Sick Children, Toronto, ON, CANADA.
CREBの記憶における重要性について示された。恐怖条件付けは扁桃体の外側核で生じるが、ウィルスベクターを使ってCREBの機能を調節する。CREBが低下すると条件付けもできなくなる。CREBが陽性の細胞ではARCも陽性であることから、この2つが密接に関係していることが分かった。

The Yin and Yang of long-term memory stabilization after recall. Involvement of BDNF–K. THOMAS; Cardiff School of Biosciences, Cardiff, UNITED KINGDOM.
BDNFはLTPとLTDの両方に関係している。恐怖条件付けの消去は海馬のBDNFに関係していることを示した。

Role of Sleep in Human Memory Consolidation and Reconsolidation–M. P. WALKER; Psychiatry, Harvard Medical School, Boston, MA.
記憶と睡眠の関係をfMRIを用いてヒトで検証した。運動技能課題を用いて、睡眠後に課題成績が有意に上昇することを行動実験で示した。この成績の上昇は覚醒期をはさむと再び低下してしまった。この時の脳活動はM1、小脳、海馬で亢進していた。朝方の6時に一度覚醒させると、成績が低下した。これらの結果は睡眠中に記憶の強化が行われていることを示す。

The Role of Sleep for the Propagation of Memories from Hippocampus to Cortex–S. RIBEIRO; Neurobiology, International Institute of Neuroscience of Natal (IINN), Natal, BRAZIL.
睡眠と記憶の関係を動物実験で検証した。シナプス領域ではCaMKIIやPKAが働いてCREBが活性化され、核内でZif-268が活性化し、軸索にはsynapsinが放出されることで刺激が伝導される。海馬では豊富な環境刺激下において、睡眠中にZif-268が亢進する。

The Organization of Recent and Remote Memories–P. W. FRANKLAND; Integrative Biology, The Hospital for Sick Children, Toronto, ON, CANADA.
記憶の強化の過程で、海馬と皮質の連結が次第に少なくなっていく。CaMKIIノックアウトマウスではフットショックによる嫌悪記憶がおこらない(remote memory)。記憶想起で前部帯状回の活動が亢進するが、CaMKIIノックアウトマウスでは亢進しない。嫌悪記憶だけでなく、空間記憶でも帯状回の活動は亢進する。

Lecture
Hypothalamic Regulation of Sleep and Circadian Rhythms :C.B.SAPER, Harvard Medical School, Boston MA
脳内の主な覚醒システムと睡眠中にこれがどのように抑制されるかを示した。このサーキットがどのように睡眠と覚醒を形成し、また機能不全が睡眠障害を生じるかを話した。脳の生物学的時計が日夜周期を形成し、さらに食物利用などの環境因子がこれを調節するかについて示した。NREM睡眠はモノアミン系が、REM睡眠はコリン系がそれぞれ支配している。またヒスタミン系も重要である。Ventro-Lateral Pre-Optic(VLPO)領域では、睡眠中にc-fosが上昇している。加齢によりこの領域の細胞数は減少する。VLPOの損傷では、δ波パワーが低下しNREM睡眠も減少する。Extended VLPO領域はREM睡眠関係している。Orexinは外側視床下部で覚醒時に上昇している。ナルコレプシー犬ではOrexinが低下している。Orexinは縫線核や青班核に影響を与える。視交叉上核とVLPOは機能的に連携している。
視交叉上核→背内側視床下部→外側視床下部(Orexin)→覚醒
視交叉上核→背内側視床下部→VLPO(GABA)→睡眠
という2つの機構が働いている。睡眠に関しては昨年もショウジョウバエの研究が圧倒的であったが、今年も同じようなテーマのレクチャーがあった。それだけ睡眠障害が一般的ということだろうか。滞在先のホテルで見たTVでも睡眠薬のCMが目に付いた。

Symposium
Going Beyond ‘Auditory’ in Auditory Cortex: Changing Perspectives on Sensory Cortical Function. Jonathan B Fritz, University of Maryland, College Park, MD, Jennifer M Groh, Duke Univ, Durham, NC
ヒトや哺乳類の聴覚野の機能は従来の説よりもはるかに複雑なものであることが分かってきた。聴覚野は純粋に感覚のフィルタ機能を持つが、さらに予期や注意など聴覚以外の影響を受ける動的な適応的フィルターでもある。トップダウン効果をイメージングで見る実験や、複数感覚からの情報が聴覚野に集まることや、聴覚以外の情報が聴覚刺激と共同して脳活動に影響を与えることなどが示された。また眼球位置や報酬刺激が上丘と聴覚野の活動に影響を与えること、聴覚と発声の相互作用における自己モニタリングなどが発表される。複数のモダリティーが相互に影響しあっていることは、最近では重要な研究テーマである。神経可塑性という点では、リハビリテーションや喪失した機能を他の機能で補うような手法に通じている。

Sensory-Motor Interaction in Auditory Cortex during Vocalizing–X. WANG; Department of Biomedical Engineering, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, MD.
自発的発声は聴覚野の活動を低下または消失させる。これは発声の直前200msから始まる。皮質の中では主に上方の層が抑制される。ヘッドホンで発声の質を変化させるとこの抑制も変化する。前頭前野と聴覚野の相互作用がある。

Mechanisms by which Context Influences Content in Auditory Cortical Processing–C. E. SCHROEDER; Cognitive Neuroscience and Schizophrenia Program, The Nathan Kline Institute for Psychiatric Research and Department of Psychiatry, Columbia College of Physicians and Surgeons, Orangeburg, NY.
聴覚野の活動は課題のコンテクストにより変化する。顔と声を同時に示すと、顔または声をそれぞれ単独で示すよりも活動が大きい。

Reward signals in primate inferior colliculus–J. M. GROH; Duke Univ, Durham, NC.
下丘の活動は課題に報酬性要素が含まれると変化する。

Lecture
Molecular Neurobiology of Alzheimer’s Disease:S. SISODIA; University of Chicago, Chicago, IL.
アルツハイマー病ではAβが細胞外には老人斑に細胞内では神経原線維変化に蓄積する。危険因子は年齢と遺伝因子である。APPやPS1-2の遺伝的変異では常染色体優性の家族性アルツハイマー病となる。APPはBACE1とγセクレターゼによりAβとなり老人班になる。APPの正常の機能は不明だが、この膜タンパクは急速順行性軸索輸送(200-400mm/日)に関わっていることが最近わかってきた。PSは膜内でのAPPやNotchなどの処理に関係している。PS1、PEN2、APH-1などの膜タンパクの連続的な反応がγセクレターゼの処理を促進してAβが産生されることが明らかになった。遺伝子変異のマウスではPSの変異で膜タンパクの軸索輸送や神経の脆弱性などについての知見が得られている。豊富な環境刺激や運動がAβの代謝を亢進し組織への沈着を遅らせる。治療としてはβ-γ-セクレターゼを低下させαセクレターゼを亢進する薬物、ワクチン、IDEによるAβ分解などが考えられる。アルツハイマー病に関する包括的なレクチャーで、昨年からの進歩として膜タンパクの連続した処理でAβが産生されることを示したことが新しかった。世の中ちゃんと進歩しているのだなあと思った。
(文章の一部は学会抄録からの引用です)

Symposium
Neuroimaging of False Memory. Elizabeth A Kensinger, Boston College, Chestnut Hill, MAKelly S Giovanello, University of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC
記憶は単純な過去の再生産ではない。むしろ誤認などを起こす生産的な過程に依存している。まったく新奇な刺激を間違って再認する(虚記憶)ことや、関連したテーマの非学習項目を再認すること(虚再認)、ソースを別のものに求めることなどがある。健常者や記憶障害患者における実験では、記憶のエラーは学習時に属性を符号化することの失敗がテスト時の混乱や再認時の判断の誤りにつながる。神経画像の研究で、符号化時と再認時のどのような活動が虚記憶を生じるのかが明らかになってきた。内容としては新奇であるが、fMRI研究ばかりでHBMのシンポジウムかと思われた。やはり動物実験も加えた方が説得力があると感じた。

Recapitulation and False Recollection: Multimodal Imaging of Cortical Contributions to False Memory–I. KAHN; Department of Psychology, Harvard University, Cambridge, MA.
再生と虚再認はミスや正棄却とは神経回路が異なっていることをfMRIを用いて示した。頭頂葉の活動はヒットで正棄却より大きい。MEGではこの活動は300msから800msあたりで生じていることが分かった。

The Influence of Emotion on Memory Distortion–E. A. KENSINGER; Psychology, Boston College, Chestnut Hill, MA.
陰性感情を伴った記憶は再生されやすいことをfMRIを用いて検証した。符号化時には陰性感情を伴う記憶は扁桃体や眼窩回の活動と関連していた。また同様に再認時にも陰性感情を伴う記憶は扁桃体や眼窩回の活動と関連していた。右紡錘状回と扁桃体は陰性感情を伴う記憶の再認に特異的に関わっていた。

The Neural Basis of Age-Related Changes in Memory Distortion–K. S. GIOVANELLO; Department of Psychology and Biomedical Research Imaging Center, Univ of North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC.
加齢により虚再認が上昇することは良く知られている。これは符号化時の障害や、検索時のモニタリング障害や、想起の失敗などが原因として考えられる。fMRIと虚再認課題を用いて、若年者と高齢者の脳活動を比較した。課題成績はほぼ等しくなるように設定した。ヒットと虚再認の差分で若年者が高齢者より賦活が強いのは扁桃体と海馬でこれは想起過程を反映したものであろう。逆に高齢者で若年者より大きいのは前頭前野であり、これは親近性と関係する。

Symposium
Oxytocin and Vasopressin: Central Regulators of Emotion.Colin D Ingram, University of Newcastle, Newcastle upon Tyne, United Kingdom
オキシオシン(OX)とバソプレッシン(VA)が母性行動や社会的絆、攻撃性など情動や社会行動に重要な働きをすることは知られていたが、近年になりさらに広範な行動に影響を与えていることが分かった。このシンポジウムではさらに治療的な役割についても示された。特にVAの径鼻的な投与は脳血液関門を通過し、脳内のペプチド伝達を薬理学的に調節し動物実験からヒトに応用されつつある。このような方法は認知や情動を調節し、不安や人格障害に対する応用性を示唆する。また自閉症のような疾患が神経ペプチドの障害を関連する可能性も示している。オキシトシン欠損マウスでは、ストレスや不安、親との絆などのなどの社会的行動がオキシトシンで調節されていることを示している。fMRIでは神経ペプチドの作用場所が辺縁系、特に扁桃体であることが分かっている。動物実験からヒトまでを含んだ発表で、きわめて包括的であった。精神疾患へのあらたな治療法も期待させるセッションであった。

Using Functional Magnetic Resonance Imaging to Study the Neurobiology of Vasopressin and Oxytocin–C. F. FERRIS; Center for Comparative Neuroimaging, University of Massachusetts Medical School, Worcester, MA.
4.7TのMRIと動物を使って、VA拮抗薬の投与によりBOLD活動が亢進する領域を探った。この薬物の投与で攻撃性が低下し、扁桃体や海馬、皮質のBOLD活動が低下した。OXでは母性活動が活発になるが、下垂体、視床下部、視床などでBOLD活動が亢進した。

Anxiety, Stress and Neophobic Behaviors in Oxytocin Gene Deletion Mice–J. A. AMICO; Department of Medicine, University of Pittsburgh, Pittsburgh, PA.
OXは抗不安作用があり社会的交流が増える。OX遺伝子のノックアウトマウスでは不安が強くなり、OXを投与すると改善する。コルチゾールの安静時の値は正常範囲であり、CRH投与に対する反応も正常である。しかしストレス対するコルチゾール反応はOXノックアウトマウスでは少なくなっている。またストレスによる体温上昇反応はOXノックアウトマウスで大きい。OXノックアウトマウスではストレス後のc-fos反応は扁桃体で大きくなっていた。

Vasopressin V1b Receptor Antagonists as Novel Treatments for Depression and Anxiety Disorders–C. COHEN; Dept Central Nervous System, Sanofi-Aventis, Bagneux, FRANCE.
VAのV1b受容体拮抗薬であるSSR149415の研究が示された。投与によりCRHが上昇することが分かった。この受容体は海馬、扁桃体、皮質などに存在する。うつ病ではVAが上昇しており、抗うつ薬により低下する。この薬剤では社会的交流が増え、ストレス性の発声が低下する。扁桃体に投与すると恐怖条件付けが低下する。

Impact of Prosocial Neuropeptides on Circuitry for Social Cognition and Fear in Humans–A. MEYER-LINDENBERG; Unit for Systems Neuroscience in Psychiatry, NIH, Bethesda, MD.
OXを投与すると、心理テストではゲームの相手方をより強く信頼するような反応を示す(Kosfeld, Nature, 2005)。VAの径鼻的投与では、恐怖顔認知課題を遂行中の扁桃体と脳幹部でBOLD活動が低下する。OX受容体のハプロタイプで視床下部と脳幹部の賦活が異なっていた。
(文章の一部は学会抄録からの引用です)

Lecture
Decision Making: A Comparative Perspective.W. B. KRISTAN, Jr.; University of California, San Diego, La Jolla, CA
ヒトはその他の動物と同じように常に判断をしている。このような判断決定を行う神経回路の機構はいくつも提唱されている。それらは命令ニューロンのようなものから、動的な神経ネットワークまでさまざまである。ヒルを用いて体性感覚や化学的刺激から、体を泳ぐか、這うか、縮むか、曲がるかの判断決定に至る神経回路を研究した。ヒルの30数個の神経節の1つに電極をさして、電位変化を記録する。例えば餌を与えると食べ始めるが、その時にはその他のすべての行動が停止する。結局判断を行う神経細胞は多機能でかつ共同的であることが分かった。また判断は階層的に行われ、最終的に泳ぐか(水が深いとき)這うか(水が浅いとき)の判断に至る。このような多機能で、共同的で、階層的な機構はヒトの脳でも存在する可能性がある。さすがに少し基礎研究に過ぎたが、多数の神経細胞が判断決定を行っていることは理解できた。

Lecture
Don’t I Know You? The Neurobiology of Recollection. H. B. EICHENBAUM; Boston University, Boston, MA.
例えば道で知り合いに会ってもそれが誰だったか思い出せないような場合は親近性(familiarity: F)が高い場合である。想起(recollection: R)とはその誰かが分かって、過去のさまざまな記憶がよみがえって来るようなことをいう。Rは前頭葉の検索実行機能と後方皮質の記憶が貯蔵されている領域の活動が関係している。そしてこの両者は海馬との連絡により機能している。海馬は皮質に存在する記憶を3つの方法で結びつけている。1つは項目とコンテクスト(つまり出来事)、2つは出来事の連続性(つまりエピソード)、3つは複数のエピソードの連結(つまりネットワーク形成)である。マウスに嗅覚課題を行わせると信号検出理論に一致した成績曲線が得られる。この曲線は縦軸にヒット率を横軸に虚再認率をプロットしている。検索がRのみの場合はある閾値を持って、その後上に凸の曲線になる。またFのみの場合は原点から直線状になる。実際の検索はR+Fになるので、この2つが加わった形になる。海馬を傷害されたマウスではFだけを用いた曲線になることから、海馬は主にRを担っていることがわかる。場所記憶の研究では、迷路の中で餌を探すことを行う。この時の海馬の反応は出来事の連続が空間・時間的記憶として処理されている。また海馬は関連記憶の関係している。これはA=BかつB=CであればA=Cであるということを判断することである。where経路は海馬傍回から内側臭内野をとおりCA1に至り、空間的コンテクストを処理する。what経路は臭周野から外側臭内野をとおりCA3に至り、親近性を処理する。検索てがかりは、臭周野と外側臭内野を経て海馬へ至り内側臭内野から海馬傍回を経て記憶として想起が成功する。いわゆるエピソード記憶に関する包括的なレクチャーで、興味深かった。海馬と皮質の役割について、その時間的空間的経路が理解されつつあると感じた。

Symposium
Assessment of Reward Function during Development. Susan L Andersen, Harvard Medical School/McLean Hospital, Belmont, MA, Monique Ernst, NIMH, Bethesda, MD
報酬系の脳内機構は成人の脳に対する理解を深めることとなった。しかしこの回路の成熟性が臨床的または前臨床的な研究において果たす役割はまだ不明である。fMRIではこのような脳活動を非侵襲的に調べることが可能である。いわゆる若者が”キレ”易いことをfMRIを用いて、実際に若年者を用いて研究していることが特徴である。日本ではこういう研究はなかなかできない。後半でADHDや覚醒剤使用者についても研究されていたことも重要な点である。

Allostatic vs. Hypersensitive Reward Systems in Adolescence–M. ERNST; Section of Developmental and Affective Neuroscience, NIMH, Bethesda, MD.
若年者の判断決定はしばしば衝動的で、危険を冒しやすく、感情的要素が強い。この原因の1つは脳の成熟が領域によって異なることと関係しているのだろう。欲動は腹側基底核に関係し、行動は皮質の活動に基づく。感情と認知のアンバランス、または接近的行動と回避的行動のアンバランスが原因であろう。

Development of Reward-Related Neurocircuitry during Adolescence–A. GALVAN; Sackler Institute for Developmental Psychobiology, Weill Medical College of Cornell University, New York, NY.
fMRIで成人と思春期と子供を比較した。課題成績をそれぞれ等しく設定した。側座核の反応は思春期でその他よりも大きかった。眼窩回の反応は子供でその他より大きかった。思春期では報酬の量と脳活動に強い相関があることが特徴である。側座核の反応と危険な行動を起こしやすい傾向に相関があった。

FMRI Probes of Reward Prediction in Adolescents and Adults–B. KNUTSON; Psychology and Neuroscience, Stanford University, Stanford, CA.
成人のfMRIでは報酬予期時に側座核が賦活され、それは報酬の量と相関する。報酬の獲得時には内側PFCが賦活される。側座核は報酬予期時に思春期では反応が少なかった。内側PFCの活動は成人と変わりはなかった。ADHDでは側座核の反応が少なく、側座核の反応と症状に負の相関があった。

Young Adult Stimulant Users’ Increased Striatal Activation during Uncertainty is Related to Pressure to Act–M. PAULUS; Psychiatry, UC-San Diego, La Jolla, CA.
米国では18-25歳の人口の11%が何らかの精神刺激剤を非医療的に用いている。単なる利用から依存形成には23-25歳で移行するとされている。fMRIとカード課題で成績を使用群と非使用群で等しく設定した。尾状核の反応が群間で異なっていた。側座核の反応は衝動性のスケールと相関した。

Reward Processes in Adolescent Depression–U. RAO; Psychiatry, UT Southwestern Medical Center, Dallas, TX.
思春期のうつ病は15才頃から増え始め、18才にはピークに達し女性が多くなる。思春期のうつ病ではfMRIで計測した報酬系の反応が低下している。

Functional Differences in Reward-Associated Regions during Development: Results from Clinical and Preclinical Studies–S. L. ANDERSEN; Psychiatry, Harvard Medical School, Belmont, MA.
ADHDでは尾状核のT2値が低下しており、これは血流値の亢進と関係している。若年からメチルフェニデートを服用している群では、内側PFCのBOLD信号が亢進していた。 (文章の一部は学会抄録からの引用です)

Symposium
Just Say No? The Prefrontal Cortex, Cognitive Control, and Addiction. Antonieta Lavin, Medical University of South Carolina, Charleston, SC, J. David Jentsch, UCLA, Los Angeles, CA
薬物依存の研究の中で、大脳皮質は今まで重要視されていなかった。しかし最近の臨床的または前臨床的研究で前頭前野の神経適応が薬物依存の患者や動物実験で重要であることが分かってきた。依存における薬物摂取の統制の喪失に関わる機構として前頭前野機能の低下(プランニングや反応抑制の障害)が関係している。側座核と前頭葉の関係性についてヒトと動物実験を用いて検証していた。興味深かったが、最終的に何でもかんでも前頭葉というのでは困ってしまう。

The prefrontal cortex in the I-RISA (impaired response inhibition and salience attribution) syndrome of drug addiction–R. Z. GOLDSTEIN; Dept of Med Resch, Brookhaven National Laboratory, Upton, NY.
自己統制と報酬処理が薬物依存では障害されている。fMRIと金銭報酬課題でコカイン依存患者は視床や前頭前野の活動が低下していた。またERPでは対照群で見られる金額による反応の変化が認められなかった。薬物ストループ課題では、患者群で吻側帯状回の活動が低下していた。

Prefrontal Cortex Involvement in Cocaine-seeking Behavior–R. A. FUCHS; Psychology, Univ North Carolina at Chapel Hill, Chapel Hill, NC.
マウス実験でコカインを脳内に自己導入し、消去し、再導入する過程でマウスの行動を見た。前部帯状回を損傷すると、コカインに対するボタン押しの回数が減少した。背側内側前頭前野と側座核の回路が重要であることがわかった。また外側眼窩回の損傷では消去の効果が減ることが分かった。背側内側前頭前野にBDNFを注射すると、コカイン探索行動が減少した。

Repeated cocaine treatment alters the activity of the prefrontal cortex–A. LAVIN; Neuroscience, Medical University of South Carolina, Charleston, SC.
コカインを注入すると動物の前頭前野における神経発射が減少した。

Phenomenology and Molecular Determinants of Cognitive Impairments in Animal Models of Stimulant Addiction–J. D. JENTSCH; Psychology, UCLA, Los Angeles, CA.
薬物依存は認知実験では前頭葉損傷患者と類似した結果、すなわち認知統制の障害を示す。サルにメタアンフェタミンを投与して依存を形成し、MRIとPETと心理実験を行った。心理実験ではreversal learning課題を行ったところ、反応抑制が障害されていることが分かった。PETを用いてD2/D3、DATのBPを測定した。対照群と比較して、尾状核ではBPはいずれも30%程度低下していた。Raclopride(D2 antagonist)を投与すると心理実験で課題成績の中で反応抑制だけが特異的に障害された。

Symposium
Sex as a Determinant of Brain Function. Arthur P Arnold, Univ California Los Angeles, Los Angeles, CA
性は脳の基礎生理や疾患の危険性に影響を与える。性差を研究することは認知機能、感情的記憶、疼痛知覚、疾患の発症と経過などを研究する上で重要である。性差のある疾患の治療は性別の研究に役立つ。なんだか圧倒的な迫力で話す女性研究者が何人も出てきた。30分の発表時間で80枚ものスライドを見せられてはとても理解がついて行かない。最終日の午後であったが、聴講者も結構多かった。

Sex chromosomes and brain gender–A. P. ARNOLD; Physiological Science, UCLA, Los Angeles, CA.
性差の中には可逆的なものと不可逆的なものとがある。性差といえば雄雌のどんな違いであろうとも該当するが、性的分化といえば永続的なものを指す。性差は再生産や攻撃性、社会的行動、運動、疾患脆弱性などに関わっている。特に雄の性行動を統制する視床下部における永続的な性差の細胞メカニズムが重要である。疾患でいえば、多発性硬化症やうつ病は女性で多く、ADHDやパーキンソン病などは男性で多い。

How do Steroids Permanently Organize the Developing Brain?–M. M. MCCARTHY; Dept Physiol, Univ Maryland Sch Med, Baltimore, MD.
エストロゲンは新生児期の雄で特に脳内濃度が高く、領域としてはpreoptic area(POA)や視床下部の領域で顕著である。男性化はPOAでエストロゲンがプロスタグランジンに影響し、これがグルタミン酸を放出することでNMDA受容体が活性化し樹状突起の棘を増やす。

Sex Differences in Pain and Analgesia–A. Z. MURPHY; Biology, Georgia State University, Atlanta, GA.
疼痛や麻酔に対する反応における性差の研究がある。モルヒネに対する反応が雄雌で大きく異なり、特に雄で効果が強い。またED50の値は雄で雌よりもかなり低い値になる。これらは中脳のPeri Aqueductal Grey領域(PAG:モルヒネの作用領域)の解剖・組織学的な違いに関係している。PAGからの出力線維は雄のほうが少なく、モルヒネの鎮痛効果は雄のほうが強い。PAGにおけるオピオイド受容体の発現は雄に多い。

Sex and Hemisphere Influences on Neural Mechanisms of Emotional Memory–L. CAHILL; Neurobiology and Behavior, University of California, Irvine, Irvine, CA.
ストレスホルモンは扁桃体と相互作用して情動を喚起するような出来事の記憶に影響している。扁桃体の活動の左右差について性別の影響がある。男性は右扁桃体の、女性は左扁桃体の活動がそれぞれ強いことがfMRIで示されている。安静時の扁桃体とその他の脳領域の活動の相関には男女で左右差がある。心理実験では冷水刺激による記憶成績の上昇は、男性で有意であった。PETでドーパミン受容体結合能の変化を見た研究では、男性において右扁桃体のドーパミン放出が有意に高かった。動物実験で扁桃体にドーパミンを注入して課題を行わせると、右半球では効果的であったが左半球では効果がなかった。これらの研究はPTSDにような疾患の理解と治療に貢献するかもしれない。

Society for Neuroscience, 35th Annual Meeting in Washington DC, Nov 12-16, 2005

1日目午後

シンポジウム: LATERALIZATION OF THE VERTEBRATE BRAIN(☆☆☆☆)
1) Overview.: O. G NT RK N, Ruhr−Univ., Bochum
P. Brocaは1861年に左半球の言語機能における優位性を発見した。さらにRW. Sperry は1960年代に左右半球の機能的な相違を発見した。 これらはいずれもヒトにおける研究であるが、1970年代にはSong birdsにおいても左右半球の機能的相違があることが分かった。現在では動物においても左右半球の機能差があることが確かめられている。

2) Molecular Asymmetry of the Developing Zebrafish Brain:M.E. HALPERN, Carnegie Inst.
zebra fishでは”nodal”という遺伝子は左半球で主に発現している。松果体茎と手綱核には明瞭な左右差があり、左半球に優位性があることが知られている。これらは幼少時のみではなく成人でも確認されている。

3) Benefits of Brain Lateralization and Interactions of Genes, Hormones and Experience in its Development.: L.J. ROGERS, Univ. of New England, Australia
ヒヨコでは視神経は完全に交叉しているため、左眼に入った刺激はすべて右半球に投射される。右眼(左半球)はえさを拾う行動に優れており、注意を必要とするような行動に関係している。左眼(右半球)は天敵に対する反応に優れ、恐怖反応や早く広範な注意を必要とする行動に関与している。右眼―左視床―前頭葉とつながる経路が優勢である。カエルは主に左眼(右半球)に映った獲物に対して攻撃することが多い。脳の側性を持つことの利益としては、1つ以上の課題を遂行する能力を上昇させることにあるだろう。

4) Ontogeny and Functional Architecture of Visual Asymmetry in Pigeons.: O. G NT RK N, Ruhr−Univ.,Bochum
鳩の卵を明条件で孵化させると側性が生じ、左右半球で課題の正答率が異なる。暗条件ではこのような側性は生じない。右眼への光で左半球の機能が亢進する。さらに左半球はスクランブル化したヒトの画像を検出する機能も持っている。左半球は小さな要素、右半球は大きな要素を認識する機能がある。

5) Evolution of Handedness and Cerebral Dominance in Primates.: W.D. HOPKINS, Yerkes National Primate Research Center, Berry Coll.
チンパンジーでは全体として右手利きが多い。これは特に「投げる」→「ジェスチャー」→「餌を取る」の順で明らかである。しかし種によって違いがあり、PongoとMucacaでは左>右であるが、その他では右>左である。MRIによる体積測定では左下前頭回(BA44)は左で大きい。さらに側頭葉平面、シルビウス裂、中心溝はいずれも左半球で大きい。

レクチャー: THE AGING BRAIN: PREDICTORS OF OPTIMAL FUNCTION: M.S.Albert Dept Neurol, Johns Hopkins Univ.,(☆☆☆☆)
認知機能の低下は中年後期で生じるが、これはヒト(50歳代)、ラット、サルで共通している。さらに個体間の差が大きくなる。神経細胞の変性には領域による差がある。海馬のCA1、CA2、CA3や歯状回、内嗅野では0-5%の減少であるが、CA5や海馬采では35%にもなる。MCIの患者においても、海馬に軽度な神経細胞の変性が認められる。一方で視覚野、運動野、前頭葉では神経変性は少ない。加齢により前頭基底核では50%、黒質では40%、縫線核では30%の神経細胞の消失がある。NMDA非依存性のLTPが健康な高齢動物で亢進しているが、これは適応的な反応である。健康な加齢とは加齢変化の無いことと、適応反応の総和である。双子研究では加齢には遺伝因子と環境因子は半分ずつ関係している。身体的かつ精神的活動はBDNFとNMDAのmRNAを亢進させ、海馬の神経新生を亢進する。社会参加も重要である。アルツハイマーのミュータントマウスでも豊富な環境は学習を促進する。

2日目午前

シンポジウム:EXERCISE AND CENTRAL NERVOUS SYSTEM DISEASE(☆☆☆☆)
1) Introduction.: C.W. COTMAN, UC, Irvine
2) Impact of Voluntary Exercise on Neurogenesis and Learning in the Rodent.: H. VAN PRAAG, Salk Inst.for Biol. Sci.
BrdUは神経新生のマーカーであり、レトロウィルスは樹状突起の伸展を示す。神経新生は1965年に海馬と臭球で発見されたが、当時は信じられなかった。これは豊富な環境、運動、卒中、てんかん、ダイエット、学習で亢進する。また加齢、うつ病、ストレスで低下する。神経新生にはランニングが最も効果的であり、次いで水泳や学習である。ランニングではLTPやNMDAとBDNFの遺伝子発現が亢進する。これは若年のみでなく高齢ランナーでも見られる。特に若いランナーでは微小血管の新生が強く見られる。

3) Exercise Training in Nonhuman Primates Leads to Functional and Morphological Changes in Brain.: J.L.CAMERON, Univ. Pittsburgh
サルに運動をさせるとトレッドミルが大好きになり、台から離すのが困難になるほどである。5ヶ月のランニングの後にサルは覚醒度が高まり積極的になるが、課題のエラー率は同じであった。つまり頭はあまり良くならなかったわけである。高齢サルでは血管体積が多くなり、中年サルでは海馬の神経新生が多くなる。3ヶ月間運動をやめても、効果はまだ持続している。

4)Impact of Exercise on Trophic Factor Levels in Hippocampus: Relevance to Alzheimer’s Disease.: C.W.COTMAN, UC, Irvine
BDNFは記憶に関係しており、運動でBDNFのmRNAが海馬のCA1で亢進することや水迷路課題が良くなることが知られている。BDNFをブロックすると学習が低下する。ストレスはBDNFを低下させるが、運動により改善する。BDNFは正常なNMDA受容体を必要とするが、Ach、5-HT、NAなどの受容体は必要としない。エストロゲン枯渇でBDNFは低下し、運動効果も低下する。運動をやめて2週間で元のレベルに戻る。毎日の運動では7日で効果が出るが、中止して1-2週間は大丈夫である。βアミロイドが沈着するマウスに運動させるとβアミロイドが減少する。

レクチャー:TRANSLATIONAL MODELS FOR TREATING COGNITIVE DYSFUNCTION IN NEUROPSYCHIATRIC AND NEURODEGENERATIVE DISORDERS: T.W.Robbins Dept Experimental Psychology, Univ. of Cambridge,(☆☆☆)
OPFCの損傷は反転課題の成績を低下させ、LPFCの損傷はセットシフトの成績を低下させる。統合失調症の中でも低機能群ではIDシフトと反転課題が低下し、高機能群ではEDシフトが低下する。COMTの抑制ではPFCのDA機能が上昇するが、これではEDシフトが上昇する。これはリタリン投与時も同様である。OPFC損傷では、ギャンブル課題で危険な判断が多くなる。セロトニン低減食では脳全体の5-HTが減るのではなく、OPFCに強く低下が認められる。ここでは反転課題成績が低下する。

2日目 午後

ミニシンポジウム:FACES, VOICES, AND THE NEUROETHOLOGY OF PRIMATE BEHAVIOR(☆☆☆)

1) Multisensory Integration of Dynamic Faces and Voices in the Primate Temporal Lobe. : A.A. GHAZANFAR, Princeton Univ.
サルでは声の表現は顔の表情と類似した機能を果たしている。サルに声の種類と表情のマッチング課題を行わせると有意に一致率が高い。また声の大きさと映し出された顔写真の大きさを判断させても一致率が高い。一次聴覚野では顔と声を同時に呈示すると発火率が大きく亢進する。

2) Neuroethology of Attention in Primates.: M.L. PLATT, Duke Univ.
注意と後部頭頂葉領域(PPC)について。オスのサルではメスの画像を見ると注意が亢進してPPCの活動も亢進する。

3) Thinking the Voice: Human Cortical Processing of Conspecific Vocalizations. : P. BELIN, Univ. de Montreal.
発声はヒト以外でもあるが、言語はヒトだけにあるため両者は区別して考えるべきである。発声は性別や社会的相互作用に関わっている。PET研究では非言語性の発声(うー、あー、など)は声以外の音(車や風音など)よりも右STSを強く賦活した。

4) Neural Responses to Facial Expressions in the Primate Amygdala. : K.M. GOTHARD, Univ. of Arizona.
サルの扁桃体にはサルの顔に強く反応する細胞が存在する。これには人物特異的、表情特異的、種特異的など複数の特性がある。SCRと扁桃体の活動を同時に計測すると、SCRは扁桃体の活動の亢進に約1秒遅れて生じることが分かった。

5) Neuroimaging Social Cognitive Function in Higher Primates Using Ecologically Relevant Tasks. : J.K.RILLING, Emory Univ.
サルにFDGでPET実験を行った。ケージの中にオスとメスのサルがいる条件とメスだけがいる条件で差分をとるとSTSと扁桃体が賦活していた。

6) Encoding of Communication Stimuli by the Primate Prefrontal Cortex. : L.M. ROMANSKI, Univ. of Rochester.
視覚刺激と聴覚刺激の統合が前頭前野で行われている。サルのVLPFCではサルの声と顔を同時に呈示した場合に発火が亢進する領域がある。2つの刺激を時間差を付けて呈示するとこの発火が低下する。

2日目 夜

シンポジウム: PARKINSON’S, DYSTONIA, AND OTHER CIRCUIT DISORDERS: PATHOPHYSIOLOGIC BASIS AND SURGICAL TREATMENTS: M.R.DeLong Dept Neurology, Emory Univ.(☆☆☆☆)
パーキンソン病は運動機能をつかさどる脳内回路の障害と位置づけられている。MPTPによるパーキンソンニズムではGPeを除く基底核の発火が亢進しているため、運動回路に抑制が生じている。DAを低下させるとβ波帯域のオシレーションが亢進し、同時に振戦も亢進する。L-dopaはこのオシレーションをγ波帯域まで上昇させるが、同時に振戦は低減する。健常者では運動皮質に60Hzのオシレーションが入力するが、パーキンソン病患者ではこれが10Hz以下になっている。以前は脳外科的に視床破壊術を行っていたが、改善率はまちまちであった。近年のDeep Brain Stimulationは黒質を刺激するが、これは基底核の発火を亢進させて振戦を改善させる。ビデオ映写でBDS前後の症状の改善を示した。今後はうつ病や強迫性障害など精神神経疾患への応用が期待されている。

3日目 午前

シンポジウム:GENES AND SLEEP: FROM MECHANISM TO FUNCTION.: C.Cirelli Dept. of Psychiatry, Univ. of Wisconsin-Madison
睡眠には2つの異なったプロセスがある。1つは概日プロセスであり、もう1つは睡眠依存プロセスである。睡眠研究の重要性の例として、10-15%の交通事故が睡眠不足によるものであることがあげられる。また30時間以上連続するシフトワーカーは、通常の2-3倍の事故率を示す。実験動物を2週間以上にわたり断眠させると死亡するが、その原因はよく分かっていない。しかし致死性不眠症の患者には、視床に限局した病変があった。イルカやクジラなど海の哺乳動物の脳には、片方の半球だけ眠らせる機能がある。近年では遺伝子と睡眠研究が活発になっている。REM期におこるΘ波睡眠はacadsという遺伝子により生じることが分かっている。NREM期のδとΘ波睡眠はretinoidという遺伝子が関与している。ハエも睡眠をとっており、脳波のLFPを記録すると若いハエは年寄りハエよりも睡眠時間が長い。またメタアンフェタミンを投与すると睡眠時間が短縮する。断眠によりハエの認知機能や作業能力が低下する。これらのハエにおける特性はほとんどヒトにおける特性と違いがないことが分かる。またオスのハエはメスのハエよりも長く眠る。ハエの集団の中には、1日に3-4時間しか眠らない微小睡眠群がおり、これらはX染色体劣性遺伝を示す。この微小睡眠群は短命である。Shaker遺伝子は睡眠にかかわっている。これはKチャンネルのサブユニットに関係し、cAMPやCREBを介して細胞のシグナル伝達に関与する。認知的には睡眠は手続き記憶(運動学習など)を改善させることが知られている。睡眠の機能は、1)記憶の再賦活と強化、2)シナプスのホメオスタシスである。

3日目 午後

ミニシンポジウム:ADAPTATION IN VISUAL PROCESSING: FROM SINGLE−CELL TO BOLD RESPONSES(☆☆☆)
1) Introduction. B. KREKELBERG, Rutgers Univ.
2) Adaptive Coding of Image Features in Visual Cortex. : V. DRAGOI, UTMSH.
サルのシングルセル記録では、通常の縞模様などのほかにも自然画像でもadaptationが生じることが確認された。さらにこの現象は自然画像のほうが強く観察された。理由としては自然画像のほうが画像として幅広い空間周波数と方向性を持つため、多くのチャンネルに影響を与えるためと考えられる。

3) Adaptation to Visual Motion in Area MT.: A. KOHN, NYU.
サルのMT野における運動によるadaptationが、MT野で新たに起きるのでなくV1でのadaptationが波及したものであることを示した。しかしMT野でのadaptationはV1のものとやや異なった性質を持っていた。

4) Motion Adaptation: From Neuron to Behavior. : R.J.A. VAN WEZEL, Helmholtz Inst.
縞模様に対するadaptationが、模様の方向やスピードに対しても生じることを示した。

5) What can Adaptation fMRI tell us about the Stimulus Selectivity of Single Neurons?: R. VOGELS, KUL.
ヒトのfMRIとサルのシングルセル記録とサルのfMRIによる研究では、adaptationは課題の種類によらず生じるボトムアップ的な現象である。Adaptationは神経の疲労によるものでなく、刺激に特異的な抑制機能である。

6) fMRI Adaptation Studies of Coherent Visual Perception.: Z. KOURTZI, MPI.
ヒトのfMRIで運動に対するadaptationがMT野で生じることが示された。また人工的な運動軌跡がヒトのSTSにadaptationを起こすことも分かった。

7) The Neural Basis of Selectivity for Gender, Ethnicity and Individual Faces. : M. NG, Salk Inst.
顔を使った心理実験では、アジア人→アジア人→アジア人と連続した後にアジア人と白人の混合顔を見せると白人と答える率が上がる。このような現象は性別、人種などという概念的なことにもadaptationが生じる可能性を示している。

4日目 午前

シンポジウム:DECREASES IN CEREBRAL BLOOD FLOW AND BOLD SIGNALS: NEURONAL CORRELATES AND MECHANISMS OF REGULATION(☆☆☆)
1) The Resting Brain, Baseline Activity and Deactivations. :M.E. RAICHLE, Washington Univ. Sch. Med.
陰性BOLD信号には2種類あり、1つは課題に依存したV1などでの現象ともう1つは課題に依存しないMPFC、PCC、外側頭頂葉などに生じるものがある。後者の信号変化は領域相互に相関関係があり、内因性の機能性を持つものと考えられている。CBFは酸素利用率と相関がある。Deactivationは皮質への神経インプットの低下であることを示す所見がある。知覚的・認知的活動の生じていない時の基礎的な脳活動が脳の代謝の80%を占めている。このdefault modeの研究も重要である。

2) Impact of Deactivation and Inhibitory Synaptic Activity on Vascular Signals Used in Functional Neuroimaging. :M. LAURITZEN, Univ. of Copenhagen.
神経活動の上昇に伴う酸素濃度の反応にはinitial dipがあるが、CBFの反応にはそれが見られない。この違いが陰性BOLD信号の1つの原因である。脳賦活はGluの放出からCaの細胞内流入、さらにNOやPGの上昇を伴う。DeactivationはGABAの放出とCaチャンネルの閉鎖による。

3) Neuronal Correlates of Negative BOLD Responses in Monkey Visual Cortex.: A. SHMUEL, Max-Planck Institute for Biol. Cyber.
視覚刺激はV1での陽性BOLD信号と、その周辺での陰性BOLD信号を生む。この陰性BOLD信号は灰白質や脳溝で生じるため、何らかの神経活動に関係しているはずである。ある実験条件で陰性BOLD信号を示す領域は別の実験条件では陽性BOLD信号を生じることから、相互に移行する可能性がある。また陰性BOLD信号の強さは、陽性BOLD信号の強さに比例する。陰性BOLD信号の原因としては、1)血管性、つまり盗血現象と2)神経性、つまり抑制現象が考えられる。Initial dipはCMRO2が上昇してCBFが変化しないために生じる。盗血現象はCMRO2が変化せずCBFが減少するため生じる。抑制現象はCMRO2が減少して、CBFはそれ以上に減少するため起こる。サルのfMRIとシングルセル記録では、BOLD信号の低下は神経活動の低下と平行していた。しかし神経活動の低下のほうが、BOLD信号の低下よりも早かった。また神経活動の波形にHDR波形をかけ合わせるとちょうどBOLD信号の波形に一致する。これらの実験結果から、陰性BOLD信号は神経性であると結論した。

4) Interneurons in the Regulation of Local Vasomotor Responses. : E. HAMEL, McGill Univ.
微小血管と星状細胞と遠心性シナプスが神経血管単位を形成している。Achは微小血管径を拡大するが、5-HTはこれを収縮する。中間ニューロンのGABAは微小血管径を拡大する。その他にはVIPやsomatostatin、電気刺激なども拡大する。

4日目 午後

シンポジウム:CORTICAL DEFICITS IN SCHIZOPHRENIA: FROM GENES TO FUNCTION(☆☆☆)
1) Schizophrenia susceptibility genes: Biological epistasis and cortical signal to noise. : D.R. WEINBERGER, NIMH.
認知機能の低下は患者のみならず、近親者にも認められる所見である。その原因として”cortical noise”があげられる。ERPやfMRIの実験でも皮質の処理能力は健常>近親者>患者の順になっている。前頭葉のノイズ値が課題成績と相関した。DAとNMDAとGABAの相互作用が重要である。COMT多型性とPFC機能の関係を示したfMRI実験や、GAD1と前頭葉機能、DISC1と海馬の賦活と体積を示した研究がある。

2) Neuregulin 1 and Schizophrenia: A pathway for altered cortical neural circuits.: A.J. LAW, Oxford Univ.
Neuregulim1は神経発達やシナプスの可塑性に関係している。NRG1 1型と4型のmRNAが患者の海馬で亢進している。NRG1は患者の小脳では低下している。

3) Gene Expression Abnormalities in Schizophrenia: Pathogenetic Mechanisms and Pathophysiological Consequences.: D.A. LEWIS, Univ. of Pittsburgh
Glu脱炭酸酵素の働きが患者のPFCで低下している。GABA機能やGAD67のmRNAが患者のPFCで低下している。GABA-parvoalbuminニューロンが皮質の第3層で減少しているが、これは抑制系の低下を示している。PFCのγ波帯域のパワー値が低下しているというERP所見がある。治療としてGABAのα受容体を活性化する薬物が有効であると考える。

4) Enhanced Prefrontal Cortical Excitability in a Developmental Animal Model of Schizophrenia.: P. O’DONNELL, Albany Medical Coll.
実験動物が新生時期に海馬の損傷を受けると、思春期になって精神病に類似した兆候を示す。このような動物ではVTAの電気刺激がPFCの活動を抑制しない。この非抑制はclozapinで抑制されるようになる。従ってこのPFCの脱抑制が統合失調症の原因である。

5日目 午前

ミニシンポジウム:WHAT HAVE WE LEARNED ABOUT SEEING FROM THE BLIND?(☆☆☆☆)
1)Seeing With One’s Hands. : E. RICCIARDI, Univ. of Pisa.
盲目者では手指刺激により視覚野が賦活される。かつこの視覚野の活動は刺激のカテゴリーに特異的である。手指刺激の運動性要素はMT野を賦活するが、これは青眼者も盲目者も同様である。

2) Cross−Modal Involvement of Visual Cortex in Touch.: K. SATHIAN, Emory Univ. Sch. of Med.
盲目者の手指刺激は頭頂葉から後頭葉にかけての領域を賦活するが、ここにTMSをかけると課題成績が低下する。盲目者では手指刺激の閾値が低く、細かい弁別が可能である。この方法で呈示位置の弁別と呈示順序の差分をとると、LOCが賦活されかつ盲目者で青眼者より強い。しかし10日にわたり手指弁別課題の練習を行うと、V1/V2のこのような賦活は青眼者でも亢進をしめし、両群での差が少なくなる。

3) Developmental Plasticity of Spatial Functions as Revealed by Blind Humans.: B. ROEDER, Univ. of Hamburg.
クロス・モーダルな空間注意についての実験で、聴覚刺激の左右判断と手指刺激の左右判断を同時に行う。手指刺激に注意を向けると聴覚に関連するERP電位が亢進し、逆に聴覚刺激に注意を向けると体性感覚に関連するERP電位が亢進する。つまり聴覚と体性感覚が相互的に影響を与え合っていることになる。両手をクロスさせて手指刺激の左右判断を行うと、青眼者ではクロスさせない時よりも反応時間が延長しERPでも違いがある。先天的盲目者では反応時間は同じで、ERPの電位も同じである。

4) Role of the Visual Cortex in Verbal Memory and Language in the Blind. : A. AMEDI, Beth Israel Deaconess Med. Center.
青眼者で5日間人工的に目が見えない条件にすると、手指刺激に対しても視覚野の賦活が出現する。この反応は2週間で消失する。盲目者には顕著な言語的記憶能力をしめす者がいるが、このような者では言語課題でLOCやV1の賦活が顕著に見られる。特にV1の賦活は、記憶課題成績と有意な相関があった。盲目者の後頭葉へのTMSは記憶成績を低下させる。青眼者では後頭葉への刺激は成績には無関係で、むしろ前頭葉へのTMSが成績を低下させる。

5) Auditory Compensation Following Loss of Vision.: M. LASSONDE, Univ. de Montreal.
レイ・チャールズやスティービー・ワンダーなどの例に見られるように、盲目者には卓越した聴覚能力を示す者がいる。遠方の音源位置推定課題で、盲目者は青眼者よりも成績が良い。これはERPでのOz電極の電位変化やPETでのV1領域の賦活に反映されている。

6) Restoring Vision is Not Enough to See. : L. MERABET, Beth Israel Deaconess Med. Center, Harvard Med. Sch.
網膜へのICチップの埋め込みと、眼鏡に付けたコイル間での情報通信により脳内へ刺激を伝達する方法について述べられた。

5日目 午後

シンポジウム:THE NEUROBIOLOGY OF EARLY LIFE TRAUMA: ROLE IN THE PATHOPHYSIOLOGY OF MOOD AND ANXIETY DISORDERS(☆☆☆)
1) Persistent Neurobiological Consequences of Child Abuse in Adult Women: Implications for the Treatment of Mood and Anxiety Disorders. : C.B. NEMEROFF, Emory Univ. Sch. Med.
幼少期の親からの離別などを含むライフ・ストレスは、CSFでのCRH濃度を亢進させる。このような患者の自殺脳でもCRHが上昇している。非虐待児は自殺率が2-5倍高いことも知られている。幼少期にライフ・ストレスを受けた子供は、ストレス負荷テストで覚醒度が高く心拍数増加も大きい。このような患者では慢性疼痛を示す者も多く、また血中interleukin-6が亢進している。CRFテストでは高反応を示す。PTSDで海馬が萎縮しているという報告もある。非虐待経験のある女性のうつ病では海馬が萎縮しており、また扁桃体の賦活が亢進している。母親が妊娠中にうつ病である場合、出産後6ヶ月目の幼児が高覚醒度を示す。このような種類の患者の治療には精神療法のみの場合が、薬物療法のみの場合よりも成績が良い。もちろん両者の併用が最も良好である。

2) Variations in the Timing and Nature of Early Life Stress in Rats Alters Their Developmental Trajectory and Adult Phenotype.: P.M. PLOTSKY, Emory Univ Sch Med.
妊娠ラットに拘束ストレスを与えるとホルモン分泌に変化を生じる。新生児での母子分離は、その子供にエア・パフ刺激に対するACTH、コルチゾール、CRFのmRNAなどの高反応を生じさせる。また海馬での神経再生を低下させるが、回復は可能である。シナプス密度とBDNFも低下する。

3) Early Aversive Experience and Structural Plasticity in the Central Nervous System.: E. GOULD, Princeton Univ.
海馬での神経再生の減少は、豊富な環境とコルチゾール低下で回復する可能性がある。キツネの臭い(天敵であるため、強いストレス刺激になる)は神経新生を低下させる。多数のラットをケージに入れると、優勢なラットでは神経新生が多く棘も多くなる。

4) Long Term Neurobiological Consequences of Early Life Stress in the Bonnet Macaque.: J. COPLAN, SUNY−Downstate Medical Ctr.
サルで幼児期の母子分離を行うと、ラットと同様にCSF中のコルチゾール、ソマトスタチン、5-HT、HVAを上昇させる。

最後に一言。今年は参加者数が30000人を超したと思われます。ポスター数は17000以上でしょう。2006年度は開催地がニューオリンズからアトランタへ変更になっています。 (文章の一部は学会抄録からの引用です)

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